続・5年後

□Affectueusement 01
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薄暗い中、飛行機は定刻より早くシャルル・ド・ゴール空港に着陸した。
短い休暇を有効に使おうと、羽田発の深夜便を利用したわけだが、空港内は淋しいくらいに閑散としている。というのも、朝の4時半。
イミグレーションもガラガラで、5時には空港を出てタクシーに乗り込んだ。これはこれで快適だ。

それにしても、窓の外はまだ夜の闇を残しており、ここがどこだかまるで実感がわかない。そして、このタクシー、高速道路もパリ市内に入ってからも、めちゃくちゃ飛ばすではないか。
「早くホテルに着けばゆっくりできるでしょ」なんて若い運転手は笑みを見せる。
無事に到着するころになってやっと、東の空がいくぶん白み始め、100メートルほど先の円柱のモニュメントが黒く浮き上がって見えた。


前日から予約してもらっていたので、そのままチェックインをすませ、案内された部屋は最上階。しかもこのパーク・ハイアット・パリ・ヴァンドームは5ッ星ホテルの中でも最高位の「パラス」の称号を与えられており、オペラ座近くの好立地に位置する。

「こんないい部屋でいいの……?」
「アメリカではよくここの系列のホテル使ってたから、そのポイントで泊まれてさらにグレードアップしたってソフィーが。彼女、有能だろ?」

ウェルカムドリンクに添えられたジャン=ポール・エヴァンのチョコレートをひとつ口に入れると、玲は窓辺に寄りカーテンを開けた。日の出を迎え、自然の明るさが室内に満ちる。

「ねえ! 彰、来て!!」

玲は目の前に広がる光景に目を奪われた。色彩の統一された重厚感あるクラシカルな建物が並び、それは朝日に照らされ息を飲むほど美しい。大通りは広場を超え、真っ直ぐにどこまでも続いていくようだ。
どこを見ても絵になる歴史ある街並み。

「ヨーロッパって感じだな」
「あの金色のドームはなんだろ? 早く街中を歩いてみたい。パリのパン屋さんって、朝早くから開いてるんだって」
「でもまだ6時だぜ。 少し休んでからにしねえ?」
「機内でけっこう寝たから平気だよ」

「今日は長い一日になりそうだしさ……」と仙道は玲を引き寄せる。
「あちこち行くのは目的を果たしてからな」
そう言って軽いキスを落とすと、「シャワー、先にいい?」とバスルームに入っていった。

玲は清々しい朝の空気を胸いっぱいに吸い込むと、そのままキングサイズのベッドに寝ころんだ。
ため息と呼ぶにはいささか甘やかで、安堵に満ちた吐息をゆるやかにはき出すと、まっすぐに正面を見据えた。白い天井なんてどこでも同じ。だがここはパリ。
リングの下調べはある程度してきたが、この数日で決められるだろうか。エンゲージに合わせてマリッジリングも揃えたい。
それに仙道と一週間もずっと行動を共にできるなんてかなり貴重だ。一緒にいろいろ見たいし、食べたいし、買いたい―――

したたる水滴を拭きながら、仙道は玲を覗き込んだ。
「寝てる……?」
自分がバスルームにいたのなんて、ほんの10分程度。なのに寝てしまうなんて、なんだかんだ疲れてるんじゃないかと額を軽くはじいた。
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