続・5年後

□Affectueusement 03
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乾杯のシャンパンはローランペリエ。
芳醇でエレガントな味わいは、まるで彼女のようだと玲は思った。
「“さっぱりした料理がいいわよね”」
今朝到着したばかりのふたりを気遣い、料理を選んでくれる。メニューを解読するのも面倒だったのでお任せした。

ソフィーはチームのコーディネーターのひとりで、移動や移動先での様々な手配をしてくれていたそうだ。しかも偶然にして仙道と同じアパルトマンに住んでいたことから、散々世話になったのだとか。

「“彰は食べ物にも好き嫌いがなくて助かったわ。他のメンバーはやれトマトが嫌いだからミートソースのトマトもNGだとかうるさくて。じゃあ何のパスタなら食べるのかと思ったら、バターに塩コショウですって”」
「“マイケルがセロリにピーナッツバターをつけてるのを見て、ソフィー、絶句してたよな”」
「“忘れてたのに思い出しちゃったわ。あれはまったく理解できない。あ、玲、どう? お口に合うかしら”」

前菜のホワイトアスパラのグレックマリネは爽やかで甘酸っぱい。新鮮なカキに添えられた海藻とレモンのグラニテ。その酸味と塩気が昼間の疲れから萎えかけていた食欲を刺激してくれる。

「“もちろんです。世の中にはこんなに美味しいものがあるのに、もったいないですよね”」
「“ホントそう。でも玲のパートナーは彰だから、心配いらないわね。何でも食べる子だから”」
「“オレ、すげー雑食みてえだな”」と仙道が苦笑いする。

ソフィーにつられてだろうか。いつもより仙道の口数が多い気がする。それとも英語だから? 自分の意見をはっきり主張する、そういう習慣を思い起こさせるからなのか。そういえば、アメリカでの仙道を知る人と会うのは初めてかもしれない。

「“褒めてるのよ。バランスの良い食事はアスリートには不可欠、ちゃんとそれが分かってたわよね”」
「“あと何だっけ? 睡眠? 夜遊び行こうとするヤツらを止めてたよな。でも時々見逃してくれるところが皆がソフィーを好きだった理由のひとつ”」
「“あら、褒めてくれてるの?”」
「“ああ、玲に変なこと吹き込まれたくねえから”」

ソフィーはフッと笑うと、玲に向き直った。
「“バランスの良い食事は、女性にも欠かせないものよね。フランス流の美の秘訣は楽しく充実した食生活と適度な運動とfaire l’amour”」

最後のフランス語がわからずに玲は首を傾げた。ソフィーはにこやかに「“ベッドの上でのアムールよ”」と言い換える。
「“だから、めくるめく夜のためにフランス女性は生涯ボディケアをかかさないわ”」

さらに彼女は畳みかけるように後を続けた。
「“だからランジェリーも大切。お薦めは『ボン・マルシェ』 老舗デパートなんだけど、あそこのランジェリー売り場はため息もののセクシーさよ。フェロモン大放出になるから行ってみて”」

おいおいという表情で、だがゆったりと仙道はグラスのワインを口にした。そんな彼に、「“ぼうや、あなた次第でもあるのよ”」とソフィーは挑発した。
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