続・5年後

□Affectueusement 05
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昼下がりのパリ。
日差しは強いが、カラッとしており過ごしやすい。実に順調に目的を達しつつあるふたりは、少しは観光しようと店をあとにした。
教えてもらったとおりに地下鉄に乗り、地上に出れば、見上げる角度でエッフェル塔がそびえ立つ。そしてそのお膝元には広々とした公園が広がっていた。

仙道は辺りを見回すと、角のスーパーから出てきた地元の人らしきご婦人に何やら話しかけた。道でも聞いているらしい。
女性は一本裏通りを指し示し、何か笑顔で付け加える。

「玲、こっち」
路地へと向かう仙道を玲は追いかけた。
「何を聞いたの?」
「美味しいパン屋さん教えてって。そこのバゲットサンドは絶品だってさ」

街のあちこちで見かけるパン屋だが、いざとなると見つからなかったりするものだ。
オレンジのかわいい庇のその店は、ひっきりなしに人が出入りする。店内は焼き立てのパンの香りに満ち、ショーケースにはパンはもちろん、カラフルでキュートなケーキまで。

「全種類、買い占めたい……」
そんな玲の呟きは、仙道の耳に届いたのか届いていないのか――
「オレはこれにするけど、玲は? 食いきれなかったらオレが食べるから、好きなの選べよ」

促されて、玲はハーフサイズの生ハムのバゲットサンドとキッシュ、ショソン・オ・ポムを注文し、さらに目移りする気持ちを抑えて顔をあげると、仙道がポツリと耳元で囁く。

「チョコレートのも食いてえんじゃねーの?」
「……and this one,please」とエクレアを指さした。


エッフェル塔の南に広がるシャン・ド・マルス公園は、緑のじゅうたんのように芝生が敷きつめられており、市民の憩いの場になっているようだ。
散策したり、芝生に寝転んだりして思い思いに過ごしている。

木陰のベンチを陣取り、ふたりは昼食にした。卵とトマトと鶏肉のシンプルなサンドをガブリと頬張った仙道は「旨い」と呟く。
そこでふと、何かが目に留まったようだ。

「なあ、あのワイン持ってるおじさん、あれ売ってるんじゃねえ? きっとそうだ」

仙道は彼に近づき、交渉し始めるではないか。誰が相手でも臆することがない。
柔和な笑みのまま、二言三言交わすと、その表情はさらに笑顔に崩れた。嬉しそうに戻ってきた彼の手には、ボトルとプラスティックのコップ。

「彼女にリングを買ったからお祝いしたいんだって言ったら、まけてくれた。嘘じゃねーだろ?」

渡されたコップにワインがつがれる。
おそらくスーパーに大量に陳列されているハウスワインだろう。だが、そのすっきりした味は何ともいえず美味しかった。

たっぷりと陽の光をうけるエッフェル塔。
展望台へのエレベーターの上り下りをのんびり見ながら、ちょっとしたピクニックを楽しむ。パリの時間を分け合うようにふたりで過ごすひと時は、何ものにも代えがたい。

「エッフェル塔、のぼらなくていいのか?」
「んー、見てるだけで充分かな。そう思わない?」
「そうだな。それよりオレはここで昼寝してえかも……」

そう言うと、仙道はゆっくり上半身を倒し、玲の膝に頭を寄せた。
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