続・5年後

□Affectueusement 06
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リヨン駅はパリを代表するビッグターミナルだ。国内だけでなく、ジュネーブやミラノ行きといった国際線も多数発着する。構内には映画にも登場したことで有名なレストランもあり、多くの人で賑わっていた。
大時計の前でソフィーと待ち合わせ。ここからTGVで1時間弱の街まで行くという。

「“スリが多いから気を付けてね。日本じゃないから、荷物おいたまま席を離れちゃだめよ。特にアキラ”」

「ウイ、マダム」と困った顔のまま愛想笑いを浮かべるところを見ると、アメリカ時代に何かエピソードがあるのだろう。そんな玲の視線に気づくと、さっさと別の話題を切り替える。

「“昨日、おすすめのビストロに行ったよ。鴨がうまかった”」

皮はパリッと中身はジューシーで美味しかったが、仙道はつけあわせの素揚げのポテトの方をより喜んでいたような気がする。いわゆるフレンチのコース料理に辟易としていたので、自分もそこの野菜ポタージュの優しい味にほっとした。

昨日はパリの街中を観てまわった。
シャンゼリゼ通り、凱旋門、ブランドショップを覗きみて、ルーブル美術館は時間がないので、コンパクトなオルセー美術館へ。
仙道はまるで興味はないだろうと思っていたが、さすがに美術の教科書に載っているような有名作品の前では足を止めた。

「見たことあるような……?」
「これはミレーの『落穂拾い』ね」
「この人知ってる」
「ゴッホの『自画像』だから……」

そんなことに思いを馳せているうちに、車窓はのどかな田園風景を映し出していた。新幹線の方が乗り心地はいいだろうか。そしてあっという間に目的地へ。
駅からはタクシーに乗ると10分ほどで市街地に入るが、こちらの街並みはパリとは違い、時の止まったような中世の趣を感じる。さらに森の中のまっすぐな道を走ると、そのシャトーは見えてきた。

エントランスゲートをくぐると右手には広々とした湖が広がり、湖面に揺らぐ完璧なまでの美しさを誇る全景が現れる。
伯爵所有のプライベートシャトーで、一部がホテルとして開放されているそうだ。一つ星レストランやチャペルも備えているらしい。
ウェルカムシャンパンでもてなされると、ソフィーが楽しくて仕方がないというように口を開いた。

「“玲、疲れてない?”」
「“いいえ、座ってただけなので”」
「“じゃ、荷物は部屋に運ばせるから、さっそく始めましょうか!”」

待ってて、と仙道をその場に残し、玲だけ連れ出された。
500年を超える歴史を持つこの城は、まるで昨日見た絵画から抜け出たように美しい。内部は素晴らしいアンティークな家具で統一され、その一室に案内されると、そこにすでに用意されていたものを見て玲は目を見開く───
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