続・5年後

□Affectueusement 06
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ぽかんと口を開けたまま突っ立っていると、「“好きなのを選んでちょうだい。好みに合うのがあるといいんだけど”」と笑いかけられた。

「“……あの……これ、私が?”」
「“もちろん。だいたいのサイズを伝えてあるから、問題ないはずよ”」

真っ白いドレス。数パターンのウェディングドレスが掛けられていた。

「“結婚式を勝手にしちゃうわけにはいかないから、ちょっと大げさな指輪の贈呈式をしましょ。カメラマンも呼んであるから、そのまま撮影して思い出をプレゼントしようという計画なの。どう? かなり絵になるわよ?”」

古城や庭園をバックにウェディングフォトなんて贅沢すぎる。そして選べと言われても、どのドレスも素敵なデザインで悩ましい。
直感に委ねて決めると、アシスタントらしき女性がやってきて、まずヘアメイクから。アップにした髪に薄ピンクのバラの生花をあしらわれた。
化粧をなおし、手伝ってもらいコルセットをつけ、いざドレスに手を通す頃にはすっかりお姫様気分。しかもここはれっきとした本物のお城だ。


一方、仙道はといえば、事前に「エンゲージリングを絶対持ってきて」と言われていたので、サイズ直しを急いでもらい、しかも玲には内密にという命を守り、昨日のうちにランニングに行くふりをして受け取りに行っていた。
その格好で店内に入るのはさすがに気がひけたが、覚えられていたのと、彼女を驚かせたくてと言えば、ドアマンはウインクして通してくれた。
とはいえ、本日の計画のことは知らされておらず───

やがて戻ってきたソフィーに別室に連れていかれ、着てと渡されたのはタキシード。なんとなく流れが読めてきた。

「“あなたに合うサイズのタキシード、パリから持ってきたんだから”」
「“相変わらず、すべての準備が完璧だな”」
「“仕事柄ね”」

そしてまたロビーエントランスで待たされること、1時間。向かいに座っていたソフィーが、ふいに笑みを漏らすと、振り向くよう目で合図を寄こした。
白い大理石のらせん階段を下りてくるのは、純白のドレスの玲だった。自分の仕度具合からうっすら想像していたとはいえ、さすがに驚きを隠せない。息をのみ、ただただ見つめた。

オフショルダーの華憐なAラインのロングトレーンに、上品なヴェールが揺れ、その姿は視覚を通り越して胸にじかに沁みてくる。
珍しくその驚愕ぶりをはばかることなく表情に出した仙道は、やがてゆったりと目を細めるように微笑んだ。
階段に近づき、数段のぼると玲に手を差し伸べた。白いグローブに包まれた手が乗せられる。

「彰………。何か言ってよ……」

気恥ずかしそうに笑う玲。

「言葉にならない」

そう言って、彼女を眩しそうに見上れば、自分の思っていることは伝わるだろう。その手をひいてゆっくりと階段を下りる。

「……じゃ、おとといのランジェリーとどっちがいい?」
「んー、難しい質問だな」

ふふ、と今まで以上に艶やかに玲は微笑んだ。
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