続・5年後

□Affectueusement 07
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1,000ヘクタールもの広大な森を有し、湖に面して悠然と佇むルネッサンス様式のこの古城は16世紀に建造された。
城内の一画には、ささやかながらチャペルがある。祭壇の両脇にステンドグラスが施され、そこから日が差し込みやわらかくふたりの上に落ちるさまは、まるで神の祝福のごとく厳かな雰囲気を醸し出していた。

セレモニーマスターは、この城の城主である伯爵自ら。ソフィーのパートナーもパリからわざわざ駆けつけてくれ、彼らの立ち合いのもと、誓約が行われた。永遠の愛の誓いは本番にとっておくとして──

「オレと結婚してください」と仙道は再びプロポーズの言葉を口にした。それは日本語でも、何となくその場に伝わったようだ。

「“貴女は彼からのこのオファーを受けますか”」

「はい」と頷けば、伯爵から仙道に小さなケースが渡される。それはエンゲージリング。まったくいつの間に用意したのだろう。だが、こんな風にちょっとした意表に出られるのは珍しくもない。仙道には、ままある事だ。


「“では、彼は彼女に聖なる指輪を贈り、約束のキスを──”」

左手のグローブをはずし、差し出された仙道の手に重ねると、ゆっくりと薬指に通された。光を反射してキラキラと輝く四つ葉のダイヤモンド。
ひとつひとつの葉にもそれぞれ意味があるという。希望、誠実、愛情、幸福。
そのすべてを自分は仙道から与えられているし、これからも与え続けられるだろうと思う。それに自分は同じだけ返せるだろうか。いや、受け取った以上のものを返したい。

そして彼の手によってヴェールがあげられた。少し困ったような笑みを見せると、軽くかがみ、やがて唇が重なる。
玲はリングの光る手を仙道の首にまわし、ぐっと引き寄せた。大胆だったかもしれない。でも少しでも仙道に応えたくて、想いを伝えたくて、そして約束の証を。
本当は反対の手のブーケを投げ出して、彼に抱きついてしまいたいくらい。代わりに、仙道の手が玲の腰にまわされた。

和やかさに包まれたチャペル内に、伸び広がるように鐘の音が響けば、最後に伯爵からある言葉を贈られた。

「“『愛すること、それは、お互いを見つめあうことではなく、同じ方向を一緒に見つめることである』これはフランスの作家、サン=テグジュペリの本の中の一節だ。日本では『星の王子さま』で知られているらしいね。この言葉をふたりの未来に”」


それを聞いて、ソフィーはパートナーの彼にそっと耳打ちした。

「それは大変だわ、彰の視野は広いから。と言うより、どこ見てるのかわかりづらいのよね。彼の得意はノールックパスだし」
「じゃあ、ちゃんと受け取れる相手を探しだしたんだろう。その広い視野で」
「なるほど──」
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