続・5年後

□La tentation
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※『誘惑』仙道バージョン (長編それぞれの番外編に三井ver.牧ver.あります)


アスリートにとって睡眠はこのうえなく重要だ。めくれあがったままのベッドカバーをはがして、シーツを新しいものに変える。ホテルのベッドさながらきちんとメイクし、快適な眠りの確保に努めた。
しかし、肝心の仙道が帰ってこない。今日は遅くならないと言われた気がするが、当てならないのはいつものこと。壁の時計に目をやると、日付が変わろうとしていた。小さくため息を吐き、シワひとつないシーツの上に玲は身体を横たえた。

明かりを消した部屋に目が慣れてきた頃、ふいに玄関から音がした。ほどなくして薄っすらドアが開いたが、こちらが眠っていると思ったのだろう、仙道はシャワーを浴びにいったようだ。
このまま寝たふりをするか否か迷う。起きあがって、待ってたのにアピールをすべきか。だが、居心地よいベッドの魅力に抗えない。  
玲は吸い込まれるように微睡みに落ちていった。

かすかに身体が上下し、その振動で目が覚めた。ブランケットの中に滑り込んできた仙道は、自分を柔らかく抱きくるみ、顔をうずめるようにしながらすり寄ってきた。

「ん、遅かったね」
「ワリィ、藤真さんがもう一軒いこうって」
それは仕方がない。
「そう……。あ、鍵……閉めた?」
「信用ねえな。閉めたよ」
「……この間忘れたくせに」

素っ気なく言うと、玲はおもむろに寝返りを打ち背を向けた。再び目を閉じると、それでも仙道がにじり寄ってくるのを感じた。

「寝んの?」
暗がりの中、熱い吐息が耳をくすぐる。当たり前じゃないと言ってやりたいところだが、返事をせずに無視を決め込んだ。
「なあ、玲……玲ちゃーん」
媚びを含んだささやき声。けっこう酔っているのかもしれない。大きな手が肩から背を愛撫し始めた。その手は腰まで行きつき、やがて裾からまさぐるように侵入してきたので、玲は身をよじるようにして仙道から離れようとした。だがしっかりついてくる。

「あったけえ」
「寝てたんだってば……」
「ん、寝てていいよ」

寝かしつけるかのごとく背中をさする仙道の手は礼儀正しく、その穏やかさに油断した。うつらうつらしていると、やがてその範囲を広げ始めるではないか。全身を柔らかく這いまわる手のひらを感じた。そして普段はあまり口にしないような甘い言葉を、仙道は次々と舌にのせる。
「好きだよ」
「玲はオレだけのものだから」
「髪も、耳も、輪郭も──」

そう言いながら、順にキスを落とす。少し冷たい唇はひたひたと首元にまとわりつき、そのあいだも絶え間なく身体への侵略は続く。たくし上げられた服の隙間から伝わってくるのは、筋肉に覆われた肌のたくましさ。ぴたりと張り付き、密着度が増した。

「こんなの…眠れない……」
彼の手を押しやった。
そうでもしないと引きずり込まれてしまう。
「いいから」
「よくない」
「いいだろ」
「ダ…メ……」

押し切られることがわかっているのに、しばらく繰り広げられる無意味な攻防。きっと仙道は困ったように笑っている、目を閉じていたにもかかわらず、玲にはわかる。
もうこの男は──

マイペースで感情を表にださない。世間の人々は、仙道のことを何を考えているか読めない男だと思っているだろう。その男が性急さをもって、ましてや下心丸出しで情交を迫るなどと誰が思うだろうか。
わかりやすい男がわかりやすいことをしても、まるで面白みがない。むしろ興ざめだ。だが、こういう男に駄々をこねられたらたまらない。

「……ダメ?」
圧し掛かられ唇を吸われる。
「……う…ん」
儚くむなしい最後の抵抗。あっけなく崩され、仙道に抱き寄せられた。むせかえるような男の肌の匂い。玲は彼の腰に腕をまわした。
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