中編

□恋ゴコロ・前編
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東京湾岸エリアにそびえ立つタワーマンション。圧倒的なスケールのエントランスは二層吹き抜けになっており、2メートル以上はありそうな大きなクリスマスツリーが飾られていた。
贅を尽くした空間は、美術館やホテルを彷彿とさせる。どうみても単身者向けの住まいとは思えない。

「武藤さんの後輩って何者ですか……?」

苗字名前はとなりに立つ会社の先輩に目をやった。学生時代はバスケをしていたというだけあって大柄で背が高い。
その体格通りに豪胆なところもあれば、意外と面倒見もよく、同じチームになってからは一緒に取引先をまわったりと何かと世話になっていた。

「そいつの兄夫婦の家なんだよ。今、海外赴任中でさ、その間やつが住んでるってわけだ」
「はあ、それで」

今日は武藤が高校の仲間と集まる場に駆り出された。いつも男ばかりで味気ねえということで、女の子を連れていくと安請け合いをしたらしい。
それなら時期的にと、本日の名目はクリスマス会。同じ事業部の女子3人でお邪魔することになった。ワインやオードブルセットを手土産に、ケーキも買って、あとはピザでも取ればそれらしくなるだろう。


「いらっしゃい」と迎えてくれた現家主も武藤以上に大きい。預かったコートをハンガーにかけると、名前にとっては頭上のフックにひょいひょいとかけていく様子を思わず見上げてしまった。
LDKは落ち着いた色合いのフローリングに、シンプルな無垢材の家具でまとめられ、お兄さん夫婦が置いていったものと思われる。白いソファーにはすでに先客がふたりいた。

「武藤さん、マジで女の子連れてきてくれたんすね。あんま当てにしてなかったから、びっくりっすよ」
「あ? ナメるなよ、清田。オレの実力を思い知れ」

まだ学生だといっても通用しそうに見えるが、とはいえ社会人2年目だという。逆にメガネの小柄な彼のほうが研究者として大学に残っているそうだ。

「牧は?」
「仕事が入っちゃったってさ」
「老け顔ふたりが欠席か。ま、今日は若人の集いだしな。じゃ、神、おまえんちだし、元キャプテンとして仕切ってくれよ」

クリスマスなんて口実にすぎないのだが、ここは「メリークリスマス」と乾杯し、何だかよくわからない会は始まった。
テーブルには買ってきたオードブルのサラダやスモークサーモン、野菜マリネが色どりよく並び、チキン料理もある。スパークリングワインはキリリとよく冷やされていた。

「3人は武藤さんの会社の人だそうだけど、部署も同じ?」
「はい、でも私は階も違うところにいるんで……仕事で一番関わってるのは名前かな」
「そ、苗字はオレの右腕ってとこだな」

武藤はワインをひと息に飲んで言った。そのグラスにボトルを傾けながら名前は反論する。

「そうやって持ち上げて、またこき使おうと思ってますね? いろいろバラしますよ?」

今日だって武藤に頼まれて……というより半分命令されて、他の女子ふたりを誘ったのは自分だったりする。
まあ、すぐにいい返事をもらえたのは武藤の人望だと言えなくもないが、男性全員が元バスケ部のスポーツマン揃いということで魅力的だったようだ。
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