中編

□恋ゴコロ・中編
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コートの前をしっかり閉じ、マフラーに手袋もして完全防備で外に出た。地上から200メートル近く離れており、遮るものがなく冷たい風が吹きつける。だが、視界一面にこれでもかと広がる東京の夜景。皆が感嘆の声を上げた。
冬の澄んだ空気に、黄色や青白い光の粒子が星のように瞬き、中でもひときわオレンジに輝く東京タワーが目を引く。まるで埋め込まれてしまったように鎮座していた。

「きれいだけど、さすがに寒いな……」

ぶるぶると震えながら宮益が振り返った。
自分を含めた女性3人と清田は、あれは都庁だとか、昼間なら富士山見えるかな、などと盛り上がっていたが、「風邪ひいちゃ困るし、一周して戻ろうか」との神の言葉に、ゆっくり歩きだした。

「神さん、もっと早く教えてくださいよー。そうすれば夏にここでビール飲んだりさ」
「ここアルコール禁止」
「じゃ、何とか流星群見たり」
「たいていの流星群は真夜中から明け方がピークだよ? 絶対寝るだろ」

清田が恨めしそうに神を見上げる。

「じゃあ、のんびり日焼けするとか」
「信長はホント牧さんのこと好きだな」
「ちょ、神、それ、牧の前でも言えるかぁ?」と武藤が口をはさむと、オフレコでお願いしますと苦笑する神。

ホームパーティに来てからずっと思っていた。かつて過酷な練習をともにした彼らゆえの気安さというか親密さは、はたから見ていても微笑ましい。むしろ羨ましいくらいだ。
武藤もいつもとは違う表情を見せる。一番年下の清田がムードメーカーらしい。何かと彼が口火を切ることが多く、場を盛り上げていた。
その彼にふいに話しかけられた。

「アルコール禁止なんてもったいねえよな」
「確かにね。でも酔っぱらうと危ないからじゃない?」
「あー、調子に乗るヤツっているからな。ま、簡単には登れねえようになってっけど」

そう言って清田がガラス張りの柵に近づき、軽く手を伸ばすと、ちょうど同じくらいの高さだろうか。

「ねえ、バスケのゴールってどのくらいの高さ?」
「リングまで3メートルちょい」
「届く?」
「舐めんなよ? なんてったってオレの特技はダンクだ!」
「ダンク出来るの!?」

それが出来るのは2メートル級の身長の持ち主だけだと思っていた。へえ、と一歩引いて彼を眺める。背が高いほうだとは思うが、武藤を見慣れてしまっているせいか、バスケプレイヤーとしてはどうなのだろう。
そんな視線を察して、「オレの超一級の身体能力を持ってすればちょろいぜ」と得意気に屈託なく笑う。確かに運動神経が良さそうだ。
さすが全国レベル。しかも聞きかじった話によると1年からスタメンだったとか。自信に溢れ、謙虚とは……ほど遠い。そしてこの突き抜けた明るい性格。きっと何かと注目の的だったんだろうなと名前は思った。
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