中編

□恋ゴコロ・後編
1ページ/2ページ


牧の登場により清田のテンションもあがり、それにつられるように賑やかさも増した。注文したピザも届き、打ち解けた雰囲気の中、会はおおいに盛り上がる。
甥っ子さんが置いていったゲーム機で対戦を始めると、彼の熱気も最高潮に。

「くわっ、また負けた! やっぱ宮さんには勝てねえや、ちくしょー!」
「じゃあ、ペナルティとして、そうだな……」
宮益の言葉を引き継ぎ、牧が続けた。
「免許証をさらすのはどうだ?」
「や、それは勘弁してくださいよっ……オレ、学生の頃の写真すよ」

すがるように清田が言う。それをまるで子供をあやすように「だからじゃないか、ほら」と牧は手を出した。容赦ない。そして受け取ると、さっそく隣にいた同僚に渡す──

「えっ、髪長い! ロン毛くんだったの!?」
「ワリーかよ」と拗ねる清田。
向かいで神と宮益が噴き出す。
名前も免許証を覗き込んだ。

「ごめん、ごめん。すごく似合いすぎてて。うん、似合ってる」

その同僚のフォローは偽りのない本心からだったのだが、清田は忌々しげに、だがとにかく流れを変えようと「次、これ。全員参加で負けたら罰ゲーム!」とパーティゲームのソフトを持ち出した。そしてトーナメント表まで作り出す気合いの入りよう。
無邪気というか、陽気というか、どこからこのバイタリティが溢れてくるのだろう。

不意に隣の武藤が口を開いた。
「お調子者の軽くてチャラい野郎だと思うだろ?」
名前はゆっくりと顔を向ける。
「昔っからあーいうヤツだけどさ、あれでなかなか苦労もしてんだぜ」
「苦労?」
耳慣れない言葉でも聞いたように不思議そうに繰り返した。

「清田もどこいってもエースはれるくらいの実力の持ち主だったよ。でもよ、同じ学年にもっとすげえライバルがいてさ、練習してもあがいてもあっちのが一枚上手で、どうにも敵わねえっていうか……中学の時からそうだったらしい。そういうのって苦しいよな」

名前はグラスを持つ手を止め、清田を眺めた。この場の誰よりも楽しそうにはしゃいでいる彼からは想像もつかない。今の話はイメージから驚くほどかけ離れていた。
武藤はさらに言いつのっていく。

「しかも、そのライバル、親衛隊もいるくらいのモテ男でさ、それもムカついてしょうがねえ一因」
「流川のことか?」と牧が反応し話に加わった。
「ああ。清田の目標は常勝海南の絶対的キャプテンで神奈川MVPのおまえだよ。でも流川がその前に立ちはだかってたっていうか。高校最後のMVPもやつだったし」
「そうだったな」
「あれでいて、意外と溜めこんじまうところあんだろ」
「確かに。それでもへこたれずによくやっていた。オレはそんな清田を認めてるんだがな」

その時、清田の雄叫びが飛んできた。また負けたらしい。しかも女の子にも。今の話と同一人物なのだろうかと疑いたくなるくらい、あけっぴろげに悔しさをにじませる彼。
まじまじと観察するように見てしまう。唐突に清田がこちらを振り向いた。

「もう負けねえ。次、武藤さんたち来てくださいよ」

ゲームなら牧さんにもワンチャン勝てっかもしれねえと意気込む清田に、「どうやら叩きのめされたいらしい」と牧がゆっくりと立ち上がった。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ