中編

□新しい恋 01
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彼氏と別れた。正確には別れを告げられた。突然終わりを迎えた恋を受け入れられず、週末は呆けたようにベッドの中で過ごした。何をするにも気力が失せて身が入らない。
そんな様子を見かねて、飲みに連れだしてくれた友人たちに誘われるまま二軒目へ繰り出せば、そこで偶然にも隣り合わせたのは、その友人の高校の同級生だった。

「おお、久しぶり……って、もうかなり飲んでる?」
「だってこの子の失恋慰め会なんだもーん」

早々にバラされた。
しかも、「他に好きな人が出来たから別れてくれってひどくない?」と振られた理由までご丁寧に添えてしまうから手に負えない。彼らに憐みの眼差しを向けられた。

「もう、こればっかりはしょうがない……ってなんで私が言わなくちゃいけないのよ」
「名前、えらい! 忘れるに限る」
「あ、人生立て直しの先輩がここにいるよ!」
肩をたたかれた彼がビールを噴き出した。
「おまっ、なんだそれ。変なこと言うな!」
「えー、せっかくの再会なんだからいいじゃん、まあ乾杯しよーよ」

よくわからないけれど、流れで一緒に飲む事になった。デカいと思ったら、ふたりとも元バスケ部だそうだ。しかも全国大会にも出場したという。だが「すごいね」なんて相槌を打ちながら、話は半分しか頭に入ってこない。
携帯を気にしている自分がいた。ここのところずっとそう。まだ連絡があるかもしれないとどこかで期待しているなんて、救いようのないバカだ──
帰宅してからも、鳴らない携帯を枕元に置いて、倒れるようにベッドに入った。

翌朝、けたたましい着信音に起こされた。こんな音の設定にしていただろうか。表示されているのは秘かに待ち望んでいた名ではなく、数字の羅列。誰だろう、しかしどこかで見たことのある並びだった。身体の芯に気だるさを残したまま渋々出ると、若い男の声が聞こえてきた。

「あー、オレ、三井。昨日一緒に飲んだって言えばわかるか?」
「えっと、黒縁メガネの?」
「それ、木暮。おたくの右隣りに座ってたんだけど」

ああ、思い出した。だが、なぜその三井から電話がかかってくるのかわからない。番号を教えた覚えもない。すると、携帯の向こうから盛大な溜息が聞こえた。

「気づいてねえな? よく見ろよ、携帯、それオレの。機種も色も同じで取り違えてんだよ」

慌てて耳から離して、それを見つめる。確かに傷つき具合が違う……ような気がする。元彼とお揃いだったカバーは早々に外し、それからは剥き出しのまま使っていた。
それに、表示された番号に見覚えがあるはずだ。あれは自分の番号なのだから。

「もしもーし」
呆れたような声が響く。
「ああ、ごめん。ホントだ。でもどうしようか」
「苗字だっけ、今日ヒマ?」
彼氏と別れたばかりの自分に嫌味かと思った。
「……特に用はないけど」
「オレこれから練習なんだよ。でも早く交換したいだろ? っつうことで、ワリィんだけどこっち出て来てくんねえかな」

悪いといいながら、遠回しに持ってこいとの指示。かといって、自分も早く取り戻したい。三井の大学に出向くことにした。


キャンパスの入り口で待ち合わせだったが、早く着いてしまったので、中に入ってみることにした。少し古めかしい、おそらく講義室が並ぶと思われる建物を抜けると学食がある。こちらは改装したのかきれいだ。その裏手は中庭となっており、その向こうに体育館らしきものが見える。
近づいてみると、間違いない。ボールの音とバッシュの摩擦音がした。昨日の話によると、この大学のバスケ部はかなり強いらしい。しかもあの三井という男は、バスケの推薦で入ったというではないか。

そっと覗いてみると、ゲーム形式の練習中だった。皆、背が高く大柄で迫力あって怖いくらいだ。その中にあって、ひときわ遠くからきれいなシュートを打つ人、それが三井だった。しばし目を奪われ、そんな自分にハッとした。スポーツしている男はかっこよく見えるから困る。

練習が終わったようで、部員たちが各々散っていく。三井も出てきて、入り口に佇む麻矢に気づいた。

「苗字? だよな」
「昨日はどうも。早く着いたから勝手に入ってきちゃった」
「いや、こんなとこまで悪かったな」と三井はぶっきらぼうに言う。目の前に立たれて、あらためて背の高さを感じた。

「携帯、部室だから、ちょっと待っててくんねえ。あ、そこのカフェテリアにでも座ってろよ」
「わかった。急がなくていいからね」と言い添えて、名前は言われた通りに座って待つことにした。
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