三井長編U

□conte 22
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ぽかぽかと暖かい春の陽がビルの合間から降り注ぐ。行き交う会社員はランチのために出てきた人がほとんどで、何を食べるか迷う様子や、また女性グループはおしゃべりに興じている姿があちこちで見られた。

そんな中、三井は足早にいつもとは反対の南口の方へ向かっていた。昼休みのこの時間に済ませておかねばならぬことがある。


目的の建物を見つけると、ためらいなく進み入り、案内係りに言われるままに書類を書き、自分の順番を待った。
ほどなくして呼ばれ、仕切りのある小さなブースに行くと、カウンターの向こうの女性が顔をあげた瞬間に、三井は我が目を疑った。

「あっ!?」

彼女の勤め先が南口側であることは知っていた。でも、まさか……

紫帆も、座っていても腰を抜かしそうになったとでも言うのだろうか。息が詰まるほど驚いた。まさか三井が客として現れようとは。
でも、あり得ないことではない。この銀行に口座を持っていれば、平日に一番来やすい店舗はここに違いない。

「驚いた……」
「ああ、オレも」
「カードローンのお申し込みですか?」
「そんな困ってねえよ」と言いながら、気を取り直した三井はドカッと椅子に座った。

これ、と差し出された用紙は『キャッシュカード再発行依頼書』

「ああ、そんなことよね」
「おまえ、それが客に対する態度か? こんなことでもなきゃATMしか用ねえよ」
「もう紛失の連絡してある?」

端末で三井のデータを探すと、確かにカード紛失の届け出が出ている。その際にいつ失くしたかのリサーチがされているのだが。

「ふふ、日曜の夜に紛失だって。飲み過ぎたんでしょ?」
「…そんなことまで…… あ! 残高とかもわかるのかっ!?」
「わかるよ? 見ようと思えばね」
「見るな!」
「見ないわよ。知ってる人のならなおさら」
「そうだな、そういうことはしないよな、おまえは」

と言いながらも、ちなみにここにあるのがオレの全財産ってわけじゃねえから、と三井は念を押した。
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