三井長編U

□conte 24
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外に出ると、来たときの薄闇は夜に変わっていた。街灯の灯りがポツポツと見えるだけで、辺りは静けさに覆われている。
車内にはカーナビの明かりが淡くうつしだされ、走り出した車は人通りの少ない住宅街をそろそろと抜けていった。

GW、紫帆は友人と大阪に旅行にいく。
食い倒れ旅行か? 確かそんな話をしていたと思うが、ふと三井が何かに気付いたようで、左右に視線を走らせた。

「……ここって……ちょっと遠回りしていいか?」と言うと、真っ直ぐ行くべき交差点を左折した。

「どこに向かってるの?」
「いや…昔バイクで……例のちょっとガラ悪いやつらとツるんでた時に、よく来た高台の空き地みてーなとこがこの先だと思うんだよな。あの頃はこんなに家建ってなかったからわかんなかったけど」

そう言うと、記憶をたどるように辺りを見回す。変わったな……とひとりごちるように呟いた三井の声は低く、紫帆の耳に残った。



緩い坂道をあがり、石垣の塀のりっぱな大きなお宅を曲がると、前方が開けて公園が見えてきた。
その前に三井は車を停めた。どうやらその空き地は、この公園へと姿を変えたようだ。

三井がかつてよからぬ連中とたむろしていた場所。それが今ではきれいに整備され、水銀灯の無機質な光が入口を青白く照らし出している。今はシーンと静まりかえっているが、きっと昼間は散歩をする人や子供たちで明るさに包まれるに違いない。


気分は伝染するのか、紫帆も胸を衝かれるような思いを感じる。三井がどんな顔をしているのか、気になるけれど、そちらを見ることは出来なかった。
その代わり……「三井さん、入ってみない?」と紫帆から提案した。
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