三井長編U
□conte 26
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紫帆は三井の話を黙って聞いた。さきほどとはうって変わって、車内の空気はおもりのように重く体にまとわりつく。
バスケ部をブッ壊そうとした──
赤信号で車が停まっても、三井はただただ真っ直ぐ前方に目を据えたまま、自分が、自分たちがしたことを淡々と語った。
不良だったと言われても、中高と私立の女子校で純粋培養の紫帆には正直ピンとこなかった。今の話にも驚くばかりで、どう思うかと聞かれても答えられない。
「それでオレは意地もプライドも捨てて、バスケ部に戻ったんだ……」
足元のあやういような不安感。ふいに訪れた小さな沈黙の中、規則的なエンジン音とすれ違う対向車のライトがゆらめく。そしていつしか紫帆の家の前に着いていた。
「その話……」と紫帆が初めて口をひらいた。
「しなくてもいいのに、何でわざわざ……話してくれたの?」
「知って欲しいから……いや、知ったうえでオレを見て欲しいから、だな」
話し出してから初めて、三井は紫帆を見た。見上げてくる彼女の瞳に、頬をこわばらせた自分が写り込んでいる。何をビビッてるんだと言いたくなるような、やるせない顔をしていた。でも自分は答えを求めている。
「当時、宮城くんや花道くん、バスケ部の人たちは受け入れてくれた……?」
「ああ」
それなのに……
引きずっていた思いは、自信を取り戻し、時間が経過しても、いまだにおさまりの悪い形のままで彼の中でただよっているのだろうか。
「桜輔も……このこと知ってるよね?全部?」
「ああ」
あの事件を知ってるか?と聞かれたそれは、これだったんだ。それでも彼は三井を慕っている。むしろ今まで以上に。