三井長編U

□conte 27
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昨夜はよく眠れなかった。一種の興奮状態だったのかもしれない。三井のこと、三井の話、考えれば考えるほど目が冴えてくる。
そして三井とのキス、彼の広くぬくもりある胸の中。記憶はまだ新しく、容易によみがえってきて無責任に心拍数をおしあげていく。

階段をおりたところで、桜輔と出くわした。いつもなら休日の朝に顔を合わせることなんてないのに、今日に限って。何だかまともに目が合わせられない。

「……おはよ」
「あれ、早えじゃん。じゃ、オレ行くから」と出て行こうとして、急に思い出したように「暇なら迎えにきてくれてもいーけど?」とニヤリとしながら言った。

「暇じゃないし」
「あっそ」

まだ知るよしもない桜輔。せっかくオレが気ぃまわしてやったのに、と内心で思いながら家を出た。迎えがあれば自分は楽できるし一石二鳥。加えて、姉の恋する相手は自分の尊敬する三井だ。
先日の陵南との練習試合のとき、ふたりはいい雰囲気だったし、 一緒に帰っていったこともしっかり確認している。何とかしてふたりをどうにかしたい、そんなことを考えながら湘北高校へ向かった。




世間はGWであり休日の装いだが、部活に勤しむ青少年にはそんなことは関係ない。シード校とはいえ、予選開始まで時間がないのが現状だ。
それぞれが集合前に体を慣らしていると、三井と宮城がやってきた。

「お、中林、早く感覚取り戻せよ?」
「はい、もう必死っすよ」

少し踏み込み、シュートして見せると、三井が手を添えてフォームを矯正してくれた。

「もっと全身使え。でも焦んなよ?無理はするな」
はい、と桜輔が頷くと、三井はフッと表情を緩め「おまえはかわいいやつだなー」と背中をバンバン叩いた。

「痛えっすよ、三井さん」
「いんだよ、もうケガ治ってんだし。心配いらねえって。そ、心配するこたねえからな? フッ…ハハハ」
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