三井長編U

□conte 28
1ページ/2ページ


紫帆のGW後半の連休は、2泊3日の大阪旅行で始まる。
仲の良かった友人のひとりが結婚してそちらに住んでいるので、皆で遊びにいってきた。久しぶりに会う彼女を囲んでそれぞれの近況報告をすれば、おのずと女子の会話の中心は恋愛へ。紫帆も三井のことを話した。

「それって『ミッチー』でしょ!」
「『ミッチー』と付き合うことになったんだあ、やっぱりね」

以前に焼き鳥屋で桜木から名前を聞きつけていた友人たちは、ミッチー!ミッチー!と遠慮がない。彼女たちは彼が「三井」という名であることを知っているだろうか。怪しい。
『三っちゃん』と呼ぶ人もいることが頭をかすめつつ、「まだそうなったばっかりなんだけど」と言えば、既婚の友人は一番いい時じゃないのと羨ましそうだ。

「いいな〜。付き合い始め、エッチもこれから……とは限らないか。もうしちゃった?」

だから数日前からだって!との紫帆の焦りと照れは幸せに満ちたものだったらしい。

「ふふ、紫帆があの時決めたことは、きっとこのためだったのかもね。そうだといいね」との彼女の厚意ある笑みには心遣いが感じられた。





携帯を切ってから、紫帆は慌ただしく動き出した。とりあえずリビングの食べかけの朝食を片づけ、ソファーのクッションを直したり表面を取りつくろう。
確かに昨夜帰ったと電話したときにお土産あると言ったけれど、三井が湘北に行く前に寄ると突然言い出したのだ。

何とか軽い化粧が終わったころに、再び電話が鳴る。玄関に出ると、三井が到着していた。

「もう、急なんだから」
「いいじゃねーか。ところで中林は?」
「出かけてるみたい。そのまま学校じゃない? 私ひとりだからどうぞあがって」

練習は午後からだそうだ。急だとか何とか言いながら、三井が来てくれたこと、会えたことが嬉しい。

「大阪、楽しかったか?」その一言は紫帆の胸の中に温かい気持ちを広げていく。その後に続いた「食い過ぎたんじゃねえ?」と見下ろされたことには、眉をひそめることで答えた。


ひとしきり旅行のことを話すと、忘れないうちにと紫帆はお土産を取りに行こうとした。

「ちょっと待ってて」
そう言ったのに、三井も腰をあげた。
「取ってくるから」
「おまえの部屋にあんだろ? オレも行く」

ダメと言っても、三井はこの家の階段の場所もしっかり覚えており、どんどん勝手に行ってしまう。
桜輔の部屋をチラっと見て、じゃあこっちだなと言わんばかりに紫帆の部屋の前に立った。

「入っていいか?」
ニヤリといたずらそうな笑みを向けてきた。今さら何を。
「……どーぞ」諦め口調で返事をし、ドアノブに手をかけた。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ