三井長編U
□conte 29
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じゃ、その日に見に行くか──
うん、と返事をすれば、優しく三井に見つめられた。ふと気づけば、ここはベッドの上。いつの間にかふたり並んで座っている。
伸びてきた手がそっと顔まわりの髪を梳きながす。それは何度か繰り返され、やがてその手が背にまわり、まるで包み込むように紫帆を抱き締めた。
三井の体にすっぽり覆われる。その温かさにだんだん慣れていくにしたがって体の緊張は解けるが、心臓はうるさくなる一方。
三井もふうと息を漏らし、ゆらゆらと競りあがってくる気持ちを何とか抑え込もうとするが、わずかばかりの理性は知らんぷりを決め込んだようだ。
紫帆の笑顔ひとつで、こんなにも容易く想いは堰を切る。そのままそっと押し倒した。
「み、三井さん……」
額から頬へと唇を滑らせていたが、紫帆の言葉に少し体を起こす。
「言いたい放題のくせに、いつまで『三井さん』なんて呼んでる気だよ?」
「……じゃ、なんて?」
「別に、普通に下の名前で呼べばいいんじゃねえ?」
紫帆がためらっていると、再び三井は薄く弧を描いた唇を寄せて、耳元で「『ひさし』って言えよ」と囁き、頬にキスを落とし、最後に優しく紫帆のそれへと。
小さな音を立てて離れていったと思いきや、再び角度を変えて柔らかく押し当てられた。ついばむような感触が歯痒く、くすぐったい。
「…ひさ……」
だが、続くはずの『し』は、待てど暮らせど三井の耳に届かない。首元に埋めていた顔あげると、紫帆は目を左右に泳がせていた。
「ヤダ! どーしよ!? 桜輔帰ってきた!」
「あ?」
「今、玄関で音がした、ほら」
慌ててふたりは体を起こした。