三井長編U

□conte 31
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帰宅した桜輔が2階に上がったところで、紫帆の部屋のドアが開いた。

「おかえり。ねえ、明日、三井さんに持っていって? さっきこれに本人から電話あって話ついてるから」

姉の口調はのんびりしたもので、あげくその内容もあまりに普通だったから、桜輔は拍子抜けしてしまった。
ただ言いづらい、照れくさいだけなんだろうが、いつまでも自分に内緒というわけにはいくまい。どうするつもりなんだろうか。


ちょうどその時、紫帆の手にある三井の携帯が鳴りだした。画面に映し出された名前は明らかに女性のもの。
『彩子』
紫帆の表情が一瞬凍りついた。

何気なく覗き込んだ桜輔は、その名をしっかり見た。すぐに止んだ着信音。メールだったようだ。だが、紫帆はただその携帯を見つめるばかり。

「最近、彼女が出来たらしいんだよなあ、三井さん」

その言葉そのものにウソはない。が、多少の挑発を含んでいるのも間違いない。

「そ、そう…なんだ…」
「今の、彼女かな?」
「さぁ……」

紫帆は手にある携帯を桜輔に押し付けるように渡し、ふいに見上げた。

「あ、あの……桜輔…?」
「何?」
「…………やっぱ何でもない」

クルリと向きをかえ、自分の部屋に戻った姉を見て、桜輔は笑いをかみ殺すのに必死だ。
今、絶対言おうとしていた。姉貴もかわいいとこあんじゃん? あ、そんなこと三井さんも言ってたな、と思い出しニヤニヤが止まらない。

振り返れば振り返るほど、最近見聞きしたことが繋がってストンと腑に落ちる気分だった。
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