三井長編U

□conte 31
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休みが続いたときでもないと出来ないから。三井は親孝行を兼ねて、母親とともに祖父母の家を訪ねた。
昔、さんざん心配をかけた手前、行くという母親の運転手をするくらい何でもない。そしてたまには顔を見せようと思った。

夕方に自宅に帰ったときに、携帯がないことに気付き、自分の携帯に家から電話をすると、遠慮がちに出たのは紫帆だった。やっぱりそこか──

それならいいやと安心して、久しぶりに母の実家にいけば、寿はいい人はいないのかとそんな話題ばかり。
母親は、「相変わらずバスケ馬鹿でいそうにないのよ〜」とか何とか言っていたけれど、
それでも嬉しそうだ。

かつてを考えれば、こんなふうに一緒に来てくれること自体、それだけでも喜ばしいこと。そんな様子を見ると、うるせーし、めんどくせーけど来て良かったと思う。そしてこれは紫帆の影響かなとも。何となく。



そんなことを考えていたせいか、藤沢の自宅の自室に戻り、ベッドに身を投げ出した三井は、急に紫帆が恋しくなった。
昼間会ったばかりだというのに、また会いたい。幸いまだ酒も飲んでいない。
子機をとりあげ自分の携帯に電話すると、電話に出たのは桜輔だった。


「おまえか……」
「姉貴かと思ったんすか?」
「まあ……な」

『実家』の表示に、三井だと思った桜輔は、相手からは見えないというのにニヤついてしまう顔を一生懸命にこらえながら電話に出た。すると案の定、三井はがっかりした様子。

「あー、やっぱ今から取りいこうと思ってよ」
「そうっすか、じゃあ……」
「おまえ、勉強してんだろ? 邪魔しちゃワリーからさ、おねーさんに変わってくんねえ?」

ククッ、“ワリーから”なんてよく言うよと心の中でほくそ笑みつつ、そのまま移動し、姉に携帯を持っていった。
何だかしばらく楽しめそうだ。勉強の息抜きにちょうどいい気がしなくもない。
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