三井長編U

□conte 34
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聞くところによると、トーナメント戦のため、勝ち進まなければ必然的に22日の試合はなくなるそうだ。だが、そんな心配は必要ないかのように、藤真たちのチームは確実にコマを進めた。

その週末は中間考査の真っ最中で部活はないらしい。夕方からの観戦のために、三井とは午後に原宿で待ち合わせをし、表参道界隈をブラブラした。

少し座ろうと入ったカフェで三井はホットを注文する。お砂糖は入れないけれど、わりとたっぷりめにミルクは入れるんだなあ、とそんな姿を見つめた。
お天気に恵まれたこの日。すでに初夏らしい気配を漂わせ、店内にはリラックスした空気が広がっている。ゆっくり過ごすこんな時間が、ふわふわと幸せを招くようで快い。

「……なあ……おいっ、紫帆?」
「え? なに?」
「聞いてなかったのかよ……、あー、藤真が何か言ってきても真に受けんなよ?」

何かってなんだろう。その前に藤真に話しかけられたら卒倒しそうだ。だが三井にしてみればその辺りが気になってしょうがない。

「それにあいつらのヤラシイ笑顔に惑わされんな? 試合中もニッコリしながら、ものすごいドライブで切り込んでくるような奴らだから。隙を見せたらすぐつけ込まれる」
「隙だらけだもんね? 聞いたよ、皆にバレたって」
「………」

急に自分に向けられた話の矛先に、射ぬかれたようにすぐに反応出来なかった。というより、その通りすぎて何も言いわけできない。

でもスッキリしたのも確か。
自分のかわいい後輩たち、そして紫帆も、紫帆のことも見知った連中。そんな彼らに納得されることは、承認され容受されたる心地で、今のこの穏やかな流れに安心して身を任せることが出来ようというもの。

湯気のたつコーヒーカップに口をつければ、マイルドな香りと少しの苦味が鼻を抜ける。紫帆は濃厚なエスプレッソとフォームドミルクがほんのり甘いカプチーノ。これを飲んだらそろそろ会場に足を運ぼうと思う。
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