三井長編U

□conte 35
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あの藤真から「ケガどう?」と聞かれたよ、などと言ったら、弟は飛び上がるほど驚くだろう。さらにバスケに身が入るかもしれない。出来れば勉強にも力を入れて欲しいものだ。


頃合いを見計らって、選手控室に向かった。三井がノックして、中の人に声をかけると、「おーい、藤真、三井さんいらしたぞ?」と聞こえ、しばらくすると藤真と仙道が出てきた。関係者しか入れないロビーのラウンジに通される。


三井さん紹介してくださいよ、と仙道に促された。

「こっちのふたりは言うまでもねえよな。
あー……と、中林紫帆さん。あとはこの間話しただろ? 湘北バスケ部に弟がいて、そいつがケガしてって……」

で、今は付き合ってると言おうとしたのに、藤真に会話をさらわれた。

「同い年だって聞いたけど、紫帆さんは高校どこ?」
「湘南白蘭でした」
「おおっ!」

当時に高野が聞いてたらゼッテー大興奮だぜとか、陵南とは近かったせいか、仙道ともどこどこでいつも寄り道してましたとか、地元ネタで盛り上がってしまい、三井は完全に遅れをとり『彼女』だと言いそびれた。

友達の彼が陵南サッカー部キャプテンで、よく陵南に付き合わされました、と紫帆が言えば、あれ? オレ、その人わかるかもしれねえ……と何とか人の名前と顔を思い出そうと首をひねる仙道の隣で、「かわいいな。元ヤンキーのおまえにゃもったいねえ」と藤真は三井にこっそり耳打ちした。


「でも弟がケガするまで、三井さんのことは全然知らなかったんです」
「そりゃそうだろうな、こいつ高校ん時……つうかオレたちってバスケ漬けだったもんな」

口を滑らしそうになった片鱗も見せず、藤真は左手で髪をくしゃっとかきあげた。それは実は藤真がごまかそうときにする仕草。それを知ってる仙道は少し肩すくめるようにしククッと笑った。

一瞬、このヤロウと目を細めたが、三井はすぐに苦笑しながら「いいよ……彼女、全部知ってっから」と紫帆を見た。

「え、三井のあの過去、知ってんの?」
「ああ、話した」

優しい笑顔を浮かべる紫帆から何を読み取ったのか、藤真はわずかに眉をうごかしたあとで、ニヤリと唇のはしをつり上げた。
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