三井長編U

□conte 37
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藤真は三井の誕生日を知っていたのだから、彼のことだ、あえてこの日を指定してきたとしか思えない。
それが面白がってだろうと、何か意図があってだろうと、結果、こうして紫帆に祝ってもらい、子供のころのように甘ったるいケーキまで食べた。
少なくともファイナル進出決定の素晴らしい試合を観戦させてくれたことに、あとで感謝のメールでもしておくべきなんだろう。


帰り際にオーナー夫妻に丁寧に礼を述べ、店を後にした。
紫帆が先に人ひとりふたり通れるほどの階段をあがっていると、あと数段で地上というところで軽く腕を引かれた。振り向くと、こちらを見上げてくる三井の視線にぶつかる。上から彼を見下ろすなんて、めったにない。

「紫帆……」

そして意を決したように三井の唇がゆっくり動いた。

「今日、帰らないとダメ……か?」

その言葉の意味がだんだんと脳に浸透してきて、紫帆は大きく瞬きを繰り返す。三井が一段、差を詰めた。

「もっと一緒にいてえから……オレの家…来ねーか?」

紫帆がコクリと頷くのを確認すると、三井は紫帆の頭を撫でた。
不意打ちの数々に終始驚かされっぱなしであり、その度に紫帆が嬉しくてたまらないといった様子で愛らしい笑みを見せる。その笑顔に熱をもったこの感情は抑えようがなかった。




家に行く前にコンビニに寄って、とりあえずのメイク落としやら女性に必要なものを調達し、家に着いたら着いたで、三井はクロゼットをあさって、紫帆が着れそうな綿のダンガリーシャツを引っ張り出した。

シャワーを借りてそれを身に着け、髪を乾かしている自分が鏡に映る。今、三井は入れ替わりでバスルームだ。

予想通りの殺風景な部屋。見られて困るようなものはねえ、と言っていたが、そりゃあないだろう。隠せそうな場所もない。
でも彼のことをもっと知りたくて、生活を感じたくて、カラーボックスに並べられた本や書類、積み重ねられたバスケ雑誌などを見ていると、その雑誌の中に数年前のバックナンバーがあることに気づく。少し古く、すり切れているから目を引いた。

パラパラとめくると、これがいつのものか、紫帆にもわかった。湘北が初の全国大会出場を果たしたときの、高校IH特集号だった。
湘北の、三井の形跡を探すことに夢中になっていると、後ろから大きな身体に覆われた。
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