三井長編U

□conte 38
1ページ/2ページ


外気にさらされた肩が少し肌寒くて、うっすらと瞼をあげると、肌色が一面に目に入る。
ハッとして頭を少し傾ければ、すぐ上には三井の顔。目は閉じられたままで、穏やかな寝息が聞こえる。薄暗くてよくわからないながらも、ここは三井の部屋だ。


Conte 38


だんだん目が慣れてくると、サイドに時計が置かれていることに気付く。示された時間はいわゆる丑三つ時。
いちど寝てしまうと朝まで爆睡の自分が、こんな時間に目を覚ますなんて── 身体だけでなく神経まで高ぶらされた証拠なのかもしれない。けれど、何ともいえぬ安堵感。
普段の口ぶりとはうらはらの三井の優しい行為に、昨日一日のささやかな緊張は溶かされた。

目の前には、鍛えられた筋肉を皮膚が覆い、肩から肘へと隆々としたラインが続く腕が伸びる。そして大きな手は自分の腰のあたりに添えられていて、暖かい。

が、むき出しの肌では冷えそうで、起こさないように身体をずらすと、落ちているダンガリーシャツをたぐって、もぞもぞと袖を通した。
そして毛布を軽く引き上げ、彼の胸の中にまたすっぽりと収まるように身を寄せた。




いつもなら習慣で朝6時に目を覚ます三井だが、今朝は人肌のぬくもりに心弛したのか、ふと気づくと8時も過ぎていた。
自分にすりよるように眠る紫帆に、思わず頬がゆるむ。いつもの自分の部屋とは思えないほどの、物柔らかな空気がそこにはあった。

伏せられた瞼から伸びる長いまつげが、白い肌の上にほのかな陰影をうかびあがらせている。
頬に軽く触れ、髪を梳く。そうやってしばらくニタニタと寝顔を眺めるも、紫帆が目を覚ます気配はない。

昨日は昼から出掛け、観戦後に藤真と仙道に会い、そのあとに実はサプライズを計画していたわけだから、かなり気持ちが張る一日だっただろう。
挙句の果て、ここで自分と一度ならず、二度……さぞかし消耗したに違いない。


とは思えど、9時をだいぶまわっても、微動だにしない紫帆に、起き上がってコーヒーまで入れた三井はだんだん物足りなくなってきた。
せっかく一緒にいるのに。そういえば、いつも休みの日は起きてこないと弟が言っていたことが思い出された。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ