三井長編U

□conte 39
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試合開始まであと5分。両チームが最後の練習を終え、各ベンチに戻る。すると、牧が三井の横に座ろうとするではないか。
「海南の方、行かなくていいのかよ?」と三井は苛立ちを隠し切れない声で聞いた。

「オレが行くとプレッシャーになるからいいんだ。ここ、いいだろ?」

そして牧は紫帆にも同意を求めた。

「もちろんです。湘北応援しちゃいますけど」
「ああ、弟さんがいるんだよな。ケガは? もういいのか?」
「おかげさまで。いいお手本があったので、その後も順調に復帰しました」
「それ、どーいう意味だ!」

三井の隣に座った牧は、藤真の言っていた通りだとおかしくてたまらない。“三井がわかりやすくて楽しいぜ”と。

そしてもうひとつ言っていたことがある。
『でもよ、三井が転がされてるように見えて、実はそれをヤツが許してるようなとこあんだよなあ。なんか羨ましいぐらいの関係性?』

牧はその言葉の意味を、三井が彼女を優しく見下ろす視線から読み取った。


試合は前半終了したところで、海南リードで湘北が後を追うような展開。
桜輔は後半からの出場となった。開始2分でキレイなスリーポイントを決めた。スロー再生に見えるほど圧倒的に滑らかで、数ヶ月前の膝のケガを一切感じさせない。

紫帆が湘北に顔を出していたのは、松葉杖をついている頃であり、まともに弟のシュートを見るのは初めてだった。
にもかかわらず、不思議なデジャヴ──
「三井を見ているようだな」との牧の声で紫帆は目が覚めたような気がした。そうだ、三井とそっくりなのだ。

「相当鍛えただろ?」
「ああ」
「私情を交えて?」
「うるせー、そっちが後だ」

桜輔の外からのシュートによって、海南はディフェンスを広げざるえなくなり、一時は逆転に成功したが、最後の最後は1点差で負けた。
海南が先に全国出場を決め、湘北は明日の陵南戦に命運をかけることとなった。


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