三井長編U
□conte 40
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Le dernier conte (最終話)
「ミッチー、なんでそんな端っこにいんだ?」
昨日のことを警戒して、ひっそりと位置どったつもりだったが、桜木に見つかった。
「紫帆サン、向こうにリョーちんたちもいるっすよ?」
「ありがとう。“ミッチー”どうする?」と紫帆にニヤリとされたら、意地でも動かねえと思ったが、あとで宮城に何を言われるかわからない。
しょうがねえなという顔をありありと見せ、三井はのそりと立ち上がった。
結局、桜木たちの後ろに陣取る形になり、腕組みをしながら座ると、さっそく宮城が振り向くではないか。
「どーも。あ、アヤちゃん、こちら桜輔のおねーサンで三井サンの……」
宮城から全部聞いていたので彩子の理解は早い。紫帆も、いつぞやの“彩子”さんね、と名前が繋がりクスッと三井を見上げて笑った。
彼女にこんな顔させるなんて、三井さんもやるわねと彩子は思った。そして三井はムスッとしているんじゃないかとチラリと見やれば、そんなことはなかった。
苦々しい色は隠せないものの、紫帆に笑顔で水を向けられたらしっかりと頷いているではないか。
(あら、三井さんも大人になったわね)
紫帆とふたりで見届けたいと思っていた三井だが、「今のがミッチー直伝のスリーっす」とか「ディフェンスも成長したな」とか「三井さんを見てるみたい」などと言われるたびに、紫帆が嬉しそうにはにかんだ様子を見せるので、これも悪くねえかと自分も眼前の試合を見つめた。
仕事をしながらも、休日は後輩たちにバスケを教えにいく。ありふれた日常にすぎなかった。ただ、彼がケガをするまでは──
不幸な出来事だと思ったが、この機にフォームも少し修正を加え、身体を柔らかく使えるようになり、よりよくなった。それに今回のことで、彼は精神的に成長したと感じている。強くなった。
人間万事塞翁が馬。
人生における幸不幸は予測しがたい。
そうか、オレもそうだったのかな、と目はボールや選手たちを追いながらも、そんな取り留めのない思考がめまぐるしく脳の中を駆け巡る。
今までは自分の過ちを後悔するばかりだった。きれいに消せるものなら消してしまいたい。そう思っていたが── そもそも人生に無駄なことなどないのかもしれない。
少なくとも、そう考えられるようになった自分はあの一連の過去をさらに昇華できたのではないか。こんなに心が軽くなったのだから。