藤真長編

□conte 01
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梅雨の晴れ間特有の、ねっとりした太陽が容赦なく地上に照りつけていた。
講義室から学食への移動だけで、うんざりした気持ちになる。来週半ばから始まるテスト期間のことを考えれば、なおさら。

いくらバスケ推薦で入学したとはいえ、学生の本分は勉強だ。それに単位が取れなければ留年は免れない。国際社会情報学部なんて選んでしまったものだから、英語での授業もあり、ついていくだけでかなりハード。
偶然、同じクラスのバスケ部のヤツが帰国子女で、今はバスケ以外の時間は彼に教わりつつテスト勉強をしている。

推薦で声がかからない限りこの大学でバスケは出来ない中、内部あがりの彼が入部したのは異例中の異例だ。中学までいたアメリカでずっとバスケをしていたらしく、実力は申し分ない。それに色眼鏡で人を見てこないところが、藤真は気に入った。

たいていの人は、バッシュの広告モデルの藤真しか知らない。入学したてのころは、周りの視線がうるさくてしかたなかった。それも落ち着き、やっと慣れて馴染んできたかと思えば、今度はテスト。

「やべえな。二外のフラ語、どーしよ」
「オレ、中国語。これからは中国だぜ、なんて思ったんだけどなー。なんで藤真はそれ選んだんだ?」
「そりゃ、選択肢の一番上にあったからに決まってんだろ」
「アホだな」
「だからさっぱりわかんねえんだよ」

まいったな……と学食のテーブルに伏せっていると、隣に座る矢野が「あ、茉莉子〜」と女の子を呼び止め、何やら楽しそうに話しだした。いい気なもんだぜ、とさらに不貞腐れて突っ伏していると、突然、自分に話を振られた。

「なあ、こいつにフランス語、教えてやってくれね」と矢野は藤真の背中をバンバンと叩いた。痛えなと顔を上げると、女の子がひとり、前に立っていた。

「茉莉子、フランス語学科なんだよ」

彼女も下からの内部進学者で、矢野の友人らしい。数ヶ月もたつとだいぶ中和されてきたとはいえ、高等部あがりは何となくわかる。特に女子は。
つい最近まで、こんな都会のど真ん中で女子高生をやっていたんだ。極一部はあからさまにその名残りを背負って目立ちすぎるほど目立つし、そうでなくともどことなくあか抜けた洗練された雰囲気があるから不思議だ。
彼女からも少なからずそういった匂いが感じられ、何がそうさせるんだろうなとマジマジと眺めてしまう。

が、そんな不躾な視線も意に介さないようで、藤真の正面に座りながら、相変わらず矢野とあれこれと世間話に花が咲く。
バスケの話になると、藤真にも「矢野って自己中でしょ。部で浮いてるんじゃない?」と気を遣って話しかけてきた。
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