藤真長編

□conte 04
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豊満な夏の匂いがキャンパス内に溢れ、セミの声が暑さをさらに耐えがたくする。だが、テストが終わった解放感で気分は清々しい。茉莉子は友人と待ち合わせのいつもの学食へ向かった。

ひときわ大きな体をさらに強調させるように、矢野が両手をあげて手を振ってきた。こちらものびのびとした心地に酔っており、くつろぎ感満載だ。

「矢野たちも終わったんだね。で、藤真くん、どうだった?」
「茉莉子のおかげで単位どころか、満点とれるかもしれねーってくらい手ごたえあった。覚えろって言われたとこ、丸々でたぜ。ほんと助かった」

爽やかな笑顔をみせる藤真の隣で、「オレ、落とすかも……」と嘆くのは矢野。しかも中国語だけでなく、情報工学も社会統計論もぜーんぶヤバイと自信たっぷりだ。

「やっぱ内部はバカなんだ……」
「やだ、一緒にしないでよ。私はかなり出来たもんね。藤真くんにライン引いたのも復習になったみたい」

「じゃ、後期も教えてよ」と藤真がニヤリとする。そして、しれっと「矢野も中国語学科の知り合い、探せば?」と言った。

「ウチの大学に中国語学科なんてねーよ。何だよ、茉莉子に教えてやれなんて言うんじゃなかった。ってことは一番はオレのおかげじゃねえか?」
「そうかもな。オールイングリッシュの講義のレポート書けたのも、おまえのおかげ。感謝してるよ」

その感謝を態度や物で示せとか、次の試合でオレの見せ場を作れとか騒ぐ矢野を一蹴し、藤真は茉莉子を見上げた。

「お礼しなくちゃな」
「いいよ。たいしたことしてない。そっちのうるさいのにしてやって?」
「こいつには最高のパスでお返しするからいいんだよ。何か奢るよ。今日はこれから練習だから無理だけど」

きっとしばらくたてば忘れてしまうだろう。だからそれ以上は固辞せずに、茉莉子は曖昧に笑っておいた。

明日から夏休み。友達と遊んで、バイトして、旅行行って。普通に楽しみはたくさんあった。恋愛面で少しばかり潤いが足りない気もするが、それはそれ。なくても不都合はなく、むしろ何の遠慮も気遣いも不要で自由だと思えば悪くない。
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