藤真長編
□conte 05
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「何もかも順調に、苦労しねえでここまで来たわけじゃねえんだよ。その証拠にあいつ、高校時代はいちども県優勝してねえし、最後の年は全国大会も出れてねえ」
神奈川の高校でバスケをしていて、藤真の名を知らぬ者はいないが、誰もが決めてかかるような確たる実績はないという。
いつもそこに立ちはだかるライバルがおり、結果、いちども勝てなかったらしい。
「そいつはF体大に行ったんだ。まさにA学の最大のライバル。他からもスカウトあったらしいけど、ウチを選んだのもそれが影響してんのかなってオレは思ってる」
という矢野だって、大学バスケ部の練習に参加し、藤真と同じチームになって初めて知ったこと。しかも高校での後半は監督業もこなしていたというから驚きだ。
そして一緒にやればやるほど、彼のバスケに対してのストイックさを思い知らされる。
「そもそもあいつのバスケは努力の上に成り立ってる。部の誰よりも走り込んでるし、練習してる。驚いたよ。 見たことねえかもしれねーけど、プレイは華やかでキレがあるんだよな。で、あのツラだろ? ついついそこばっか目がいきがちだけど、違ぇんだな……藤真はスゲーよ……」
ひと通り力説してから照れがきたのか、ま、そういうことだ、と矢野がジョッキを煽ったところに、「なに恥ずかしいこと言ってんだよ……」とぬっと藤真が現れた。
「わっ、汚ねえなあ、吹くなよ」
「ふ……藤真こそ、急に戻ってくんなっ!」
「ふたりで大事な話をしてるとこ、邪魔した?」と茉莉子にもからかうような軽い笑みを向ける。
恥ずかしいのはこっちの方だ。
そんな藤真に対し、表面だけを見て羨ましがるようなことを軽々しく言った。見当違いも甚だしい。しかも心の中では、特段の努力もなしにスルスルとくぐり抜けてきただけの自分と一緒にした。
悪気はない反面、落ち着かない気分になり、茉莉子は目を合わせられず、おしぼりを探すふりをした。
そのくせ、藤真のどこにそんな要素があるのか、無意識に観察している自分にも気づく。斜め前に座り、冗談を言い合い、屈託なく笑う彼は自信に満ち溢れているように見える。
調子のいい矢野が大げさに言っているだけなのだろうか。わからない。