藤真長編

□conte 07
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久しぶりにバスケットボールを触った。出席さえすればいい有難いカリキュラムだが、この暑さの中の運動はきつい。持ってきた水分もすぐに底をつく。休憩中、外の自販機に茉莉子は向かった。よっ、と声を掛けられて振り向くと矢野だった。

「どーだ、体育館は暑いだろー。思い知ったか」
「はいはい。あの中で毎日やってるなんてすごいねえ。……あれ、今来たの?」

ラフな格好で大きなエナメルバッグを持っている。そして額にはじんわり汗がにじんでいる程度。

「ああ、今日はおまえらの体育が終わってからだから。けどその前に筋トレでもしとこうっつーオレ、エライだろ?」
「………」

藤真のあれは自主的なトレーニングだったのか。先日の矢野の言葉の裏が取れた気がする。そして驚いたのはそのことだけじゃない。

目の前のこの男、高等部のころは何かと遅刻の常連だった。それが自ら率先して早く来るなんて信じられない。しかもおそらくそれは日常的に。

そもそも彼だってそれなりの積み重ねがあって今があるわけだが、だからといって“コツコツ努力”をするタイプではなかった。そんな矢野に影響を与えているのが誰であるかは明白だ。

それにしても暑い―――
木々の緑の葉までが汗をしたたらせているように見え、それがさきほど見た藤真の汗とオーバーラップした。



翌日は最後にゲームを行い、以上でめでたく終了。負けたチームのペナルティとして床にモップを掛けていると、藤真がやってきた。

「お疲れ、ってホント疲れてそうだな。ヘロヘロじゃん」
「よく毎日毎日こんなハードなスポーツやってんね……」

しかもそれだけじゃない。前後に自主練のオプション付き。そんな藤真に「ふだん運動不足だから余計に堪えるんだろ」と言われれば、返す言葉もない。
茉莉子はわざと藤真の足元に向かってモップを突き出した。

「どいてよ、掃除してんだから」

それを笑って軽々と避けながら、「いいもんだぜ? 暑い夏にみんなでバスケ」と藤真は続ける。まるで遊びでやっているような言い方をする。そんな次元じゃないくせに。

「ダイエットにもなるだろ? 汗かいて。あ、その後のビールが最高なんだよなあ」
「それじゃ意味ないって」

掛ける向きを変えようとした茉莉子だが、再び藤真に向かってモップを押し出す。「おっと」と藤真は後ろずさりし、また避けた。
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