藤真長編

□conte 08
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この女の子たちはどこから試合の情報を聞きつけてきたのだろう。隣に座る友人いわく、そんなのすぐにツイートされるとのこと。ちらほらと藤真目当てらしき女性のグループがギャラリーを陣取っている。

そういう自分はなぜここにいるのか──
ここ数日ぼんやり考えた末、藤真自身ではなく、そのライバルだというF体大の選手でもなく、表に見えない見せない藤真の努力とやらを確認したいのだという結論に達した。何のために鋭意努力するのか、知りたい。

少し気負いすぎていたのだろうか。飲み物を買いにいこうと席を立った時に、すぐ後ろの通路側の席の男性の足に引っかかってしまい、茉莉子はすみませんと謝った。座っていてもわかるくらい背の高い人だった。

他大バスケ部の敵情視察か……と思ったのだが、どうやら藤真の友人らしい。端々に聞こえてくる会話に藤真の名が混じる。そしてそれを決定づけたのは、藤真が真下にやってきた時に声をかけたから。

「おっ、本当に見に来たんだ」
「ああ、F体大だしな」


藤真は彼らの前に座る茉莉子にも気付き、軽く手をあげた。が、すぐにそのことを藤真は後悔した。前列の女の子が藤真の知り合いだとわかるやいなや、高野がチャンスとばかりに話しかけ始めたからだ。
茉莉子はきっと話を合わせてくれるだろう、そう思うと何だか心苦しい気がする。高野がこっ恥ずかしいギャグを言い出す前に、花形がどうにかその場を収めてくれねえかな……と望みを託すしかない。


「どうした? 藤真?」

眉間に皺寄せる藤真に矢野が気付いた。あそこ、と親指を向けると、矢野も茉莉子たちに気付いた。

「あ、ナンパされてる」
「あのデカい男たち、オレの高校の時のチームメイト……ったく、何しに来たんだか」

今回、藤真から試合があると声掛けたわけではなかった。どこからか聞きつけてきた高野が、何時から?とメールを寄越したから教えたまで。
A学に来るチャンスを伺っていたに違いない。花形は道連れか……。

「茉莉子も今フリーだし、いいんじゃね?」
「んー、高野じゃ申し訳ねえっつーか………あっ……」

T大理科T類の花形。理系の男が茉莉子の好みだと聞いた覚えがある、あれはいつだったか……などと考え巡らせていると、「よう、藤真」と背後から声をかけられた。

アップを終えた牧だった。
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