藤真長編

□conte 09
1ページ/2ページ


その後10分間は長くて短い時間だった。

開始早々に藤真にボールが渡った。刹那の静けさの中で数回のドリブルの音が響き、それは茉莉子の耳の底にこびりつき今でも離れない。そして藤真の流れるような動きと緑のユニフォームの鮮やかな色に目が射抜かれた心地がして、手を握りしめたまましばし身動きが出来ずにいた。

藤真が動けば、すかさず牧が飛んでくる。逆もまた然り。互いの互いにしかわからない一瞬の隙をつこうと、全身とその神経を研ぎ澄ます。相手を欺こうとあらゆるテクニックを駆使し、またそれを潰そうと講じる。最初の一歩で抜き去ろうと、抜かれまいとの激しい攻防。にわかに優劣つけがたい。

感情を入れ込み過ぎていたのか、茉莉子は見ているだけで呼吸さえ詰まるような思いだった。クウォーター終了のホイッスルが鳴ると、潜水から浮き上がってきたかのように大きく深呼吸をした。

知らなかった……
普段の藤真からはその激しさのカケラすらもつかめない。そんな10分間であり、そのために彼は日々積み重ねているのだとしたら、今までよりもずっと強く、そしてもろいものにも茉莉子は見えた。

それはベンチに戻る藤真の硬い表情がチラッと見えたからかもしれない。茉莉子には今の藤真のプレイの良し悪しがまったくわからないが、自身で納得いくものではなかったのだろう。そしてそれは牧に阻まれたからなのか……。

ふと牧に視線を流す。彼もまた座って汗を拭きながら、コートをジッと見つめている。明らかに満足していない。藤真と同じだ。
納得して満足してしまったら、そこで終わり。だからこそ高みをめざして鍛錬し続けるのだろうか──


そんなことを考えているうちに、肝心な第4Qも終わっていた。結果は僅差でF体大の勝利。
負けたけれど拮抗した試合展開に、誘った友人も面白かったと喜んでくれたし、さきほどは高野からも興味深い話を聞けた。

その高野たちに挨拶して帰ろうかと思っていると、「茉莉子―!」と中高の同級生3人が
駆け寄ってきた。いささか興奮気味な様子にイヤな予感がする。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ