藤真長編
□conte 12
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何もかもがうまくいかない日もある。藤真にとって今日がそんな一日であった。
忘れ物を取りに戻れば、目の前で電車を逃し、しかも乗った電車は乗り入れ先の聞いたこともない駅での人身事故のために、渋谷まであと一駅というところで止まり、練習時間ギリギリになってしまった。
おかげで身体を慣らす時間が足りなかったせいか、動きが硬い。ゆえに周りとかみ合わないし、ファンブルするは、シュートは入らないという有り様。こういうことのないようにとの日々の鍛錬は何だったのか、と気が滅入る。
帰りは行きの教訓からか、発車間際の電車に無理矢理乗れば、最後尾の車両はめちゃくちゃ混んでおり、やっとのことで降りれば、外はものすごい夕立。確かに雲行きは怪しかった。
ため息をつき階段に向かって歩き出したところで、少し前を歩く女の子が茉莉子であることに気付いた。
「よぉ……って、どこ帰り?」
彼女のかたわらには大きなスーツケース。明らかに海外旅行帰りだ。
「ああ、藤真くん。お疲れ。初めてフランス行ってきたんだけど……」
エレベーターは点検中だし、雨降ってきたし、ついてないよとこぼす茉莉子に藤真は苦笑した。
「ちょっと待て。ほら、貸せよ」
彼女のスーツケースを手にすると、降りゆく人をやり過ごして、最後にエスカレーターに踏み出した。改札を出たところで茉莉子が受け取ろうとしたが、藤真は辺りを見回す。
「どうする? 通り雨だろうし、ちょっと待てば?」
「そうだね、そうする。気にしないで藤真くんは帰ってね」
「オレも傘なんて持ってねえし、急ぐ道でもねえし」
それに急いでもいいことねえしと独り言ちると、壁際に置いたスーツケースに軽く腰かけるように寄りかかれば、茉莉子も壁に背を預けた。