藤真長編

□conte 14
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長い休みも終わりを告げ、大学に通う日々が再開されて数日たつのだが、自由すぎた生活のツケなのか……
今日は1限からだと、夜更かしが癖になっていた身体に鞭打って来てみれば、何を勘違いしたのか講義は2限目から。茉莉子は時間を潰すはめになった。

それはそれでゆっくりコーヒーを飲んだり、久しぶりの友人たちと会えたりと、まあ悪くはない。だが、それも調子に乗り過ぎて、気づけば2限も始まろとする時刻。慌てて敷地内一番奥に位置する大きな講義室に向かった。


一般教養の中でも楽で、しかもわりと面白いと言われている心理学入門。それゆえにあらゆる学科から多くの学生が集まっている。出欠は携帯から、その講義中に教授が言うパスワードをログイン画面で入力すればよい。

いつも一緒に受けている友人がいるのだが、少し遅れたせいでどこにいるのかわからず、とりあえず空いている端の席に座った。
もうこのままここでいいや、と頬杖ついてぼんやりと話を聞いていると、やはり遅れて身をかがめるように壁沿いにやってきた学生とふいに目が合った。

先に進みかけた彼だが、「そこ、空いてる?」と小声で聞いてきた。コクリと頷くと、スッと滑り込むように隣に座る。

「藤真くんもこれ取ってたんだ」
「茉莉子も。今まで気付かなかったよ」

それはそうだ。藤真と知り合いになったのは夏休みの少し前なのだから。走ってきたらしく、額に汗がにじんでいる。


「お疲れ。先週は合宿だったんでしょ?」
「よく知ってんな」
「高校の同級生たちと飲もうってなったとき、矢野からの返信が『合宿中』だったから」

それを見たとき、藤真も合宿に行っているから今はあの部屋にはいないのだな、などと思ったりした。

「地獄みてーな合宿だよ」
「あー、メールからも悲愴感ただよってきてた」

フッと藤真は柔らかく笑うと、「そうだ、もうパスワード言っちゃった?」と携帯を取り出した。

「『パーソナルスペース』だって」
「助かる。サンキュ」

手早く入力すると、おやすみと小さく呟いて、さっそく藤真は机に伏して寝に入った。

覗いては悪いような気がして、茉莉子はしばらく講義に耳を傾けていたが、どうにもその誘惑には勝てそうにない。そっと視線だけを隣で眠る藤真にうつした。

サラッと流れる髪の合間からのぞく目はしっかりと閉じられている。が、前触れもなく突然開くのではないかと期待するような、それは困るような。だが、藤真は完全に眠りに落ちているようだ。微動だにしない。

茉莉子はそのまま机に肘をつき、自分の右側を意識しないよう努めながら、壇上の教授の話をうわの空で聞いていた。
それは催眠術のようだった―――
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