藤真長編

□conte 16
1ページ/2ページ


インカレ出場権がかかるリーグ戦の真っ最中であり、土日は試合、平日は練習の日々。毎日があっという間に過ぎていく。試合、練習―― その繰り返しの中で、殊の外、普通の大学生活が藤真にとって貴重な息抜きの時間となっていた。

あれからも時々、茉莉子と茉莉子の友人たちとお昼を食べたり、少ない余白の時間を何となく一緒にいることが多かったように思う。突然休講になったという茉莉子を、自分のトレーニングに付き合わせたこともある。


午後イチのフィットネスセンターにはほとんど人がいない。ベンチプレスに励む藤真の横で、隣のマシーンに腰掛け、周りを眺めてから茉莉子は藤真に視線をうつした。

「何かあった?」
藤真はチラリと横目で茉莉子を見て、その先を促す。
「……元気ないような……でもそのわりに気合い入ってるのはなぜ?と思って」

女なんてうっとおしいだけだと思っていたのに――― 自分の変化、感情の変化に気付いてくれるのが嬉しい。自身で課しているセットを終えてから、藤真は軽く身体を起こした。

「日曜、F体大とだったんだよ……」
「教えてくれたら応援しに行ったのに」
「会場、つくばの方だったからさ」

でも相手がF体大なら興味あったなーと呟く茉莉子に、なんで?まさか牧に興味があるのか?と筋違いなことを思い浮かべ、そんな自分に唖然とした。
思考がおかしな方向へさまようのは、牧への対抗心からだと……思いたい。そう、牧だ。オレが意識しているのは牧なんだと自分に言い聞かせる。

「牧が……また力つけてたんだよな」
「で、筋トレ?」
「あのなー、力っつーのは」と藤真が眉根を寄せた。
「あはは、わかってるってば。そんな難しい顔して言うから」

やはり藤真に何らかの余波を残していたのは牧だった。いつも通りの清々しさの中に少しばかり悄然とした影を感じ、茉莉子は気になっていたのだが、だからといって自分には何も出来ない。牧との切磋琢磨は成り行きを静観すべきもの。

そしてその物言わずとも気持ちを汲み取ろうする姿勢は藤真に伝わる。いや、そう感じとったのは藤真の中ですでにある感情が育ち始めていたからだろう。見ていて欲しい――

「今週末でリーグ戦最後なんだ。会場ここだから見に来いよ」
気づけば唇からそんな言葉が流れ出していた。
「行く行く。対戦相手は?」
「Y大。 あー、ここにも因縁の相手がいんだよなあ」
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ