藤真長編

□conte 19
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火照った身体を鎮めるために、藤真は外に出た。今の自分には快い風だが、その冷たさに冬の訪れを感じさせられる。

全日本大学バスケットボール選手権大会(インカレ)の真っ最中であり、熾烈なトーナメント戦が繰り広げられているのだが、試合後に労いに来てくれる友人や知人の中に茉莉子の姿はない。先月のリーグ戦のときは観戦に前向きだったのに、今回声かけたときは薄く微笑まれただけだった。

「にしてもさー、藤真の元チームメイトはでけぇのばっかりだな」と矢野が上着を投げてよこした。

今日は長谷川と長野が来てくれていた。

「ああ、『摩天楼軍団』って呼ばれてた」
「で、おまえは『ソーヘキ』だっけ? 意味わかんなくって検索しちまったぜ」
「なんでそんなこと知ってんだよ」
「茉莉子から聞いた」

尚更わからない。なぜ茉莉子が知っているのだろう。そしてそれよりも聞いてみたいことがあった。今なら聞いても不自然ではない。

「そういえば、茉莉子……来ねーな」
「なんか忙しいっつってたけど、F体大とあたるのいつ?って聞かれたから明日は来るんじゃねえかな」

準決勝にしてF体大戦。かすかに口元がほころぶのをごまかすために、藤真は上着に袖を通してから、左手で髪をかきあげた。


実際、茉莉子は本当にバイトが入っていて行けない状態だった。というのも、急に辞めた子がいたので、自ら代わりを申し出たというものであったが……そんな大義名分が出来たことに胸を撫で下ろしているのも確かだった。

帰宅途中に携帯で試合の勝敗を確認するのが日課となっているここ数日。そして明日は予想通り勝ち上がってきたA学大対F体大の試合がおこなわれる。

その注目のカードは土曜日とあって、いつもより観客が多い。茉莉子もスタンドからそれに紛れて見守っていたが、結果はやはりF体大に軍配があがった。
出入り口に向かうロビーで、友人がとある人物に気が付いた。

「あの人、前に会った藤真くんの高校のチームメイトだった人じゃない?」
「ホントだ。やっぱあれだけ背が高いと、この中でもすぐわかるね。しかも彼、T大なんだって」

ちょっと行ってみよ!と友人が踏み出そうとしたその時、花形の元に近づく別の人物があった。反対のスタンドからやってきた、やはり明らかにバスケをやっているらしき体躯の男性。そして茉莉子はハッとする。その脇にいる女の子はあの日藤真と一緒にいた“彼女”だ。
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