三井長編 続編・番外編

□suite 01
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まだ夏の匂いを色濃く残すが、夕暮れに近づくと、秋風らしいものが木々を揺らすこの季節。
桜輔たち3年生のほとんどが夏で引退し、湘北バスケ部は新体制となった。今日も三井はそんな彼らの指導にいっている。

こちらは恒例の女友達とランチ中。
涼しげなグラスのアイスコーヒーを飲みながら、また彼は高校生と一緒になってやっちゃってんだろうなあと、こみ上げてくるニヤけた笑みを堪えていたつもりだったが、「紫帆、気持ち悪いよ、それ」と突っ込みを受けた。

「ミッチーとうまくいってんだあ」
「休み合わせて、ミッチーと全国大会見に行ってきたんでしょ?」

いちどインプットされてしまうと、そう簡単にその呼び名が覆されることはないらしい。紫帆は皆の前では“三井さん”と言っているのに。そして、旧知の友人たちは容赦ない。

「私たちと旅行に行ったことになってるんでしょ〜」
「あー、なんかそれ、懐かしいね」

懐かしい……今だから言えること。そう、1年ほど前までよく使わせてもらった。遠距離の彼に会いにいくために……。
ねえ、ついでだから言うけど、と友人のひとりがぽつりと口をひらいた。

「山岸さん、こっちに戻ってくるって。辞令でてた」

えっ……、と反射的にその友人の顔を目を見開いて見つめてしまう。確かに、山岸とは彼女を通じて知り合った。短大を出て、自分より早く働き始めた彼女の会社の先輩。3,4年は向こうだろうと聞いていたのに。

「まだ……2年だよね?」
「でも9月から東京だってさ」
「……そっか」

思いもよらない話に不意をつかれたが、動揺はない。友人もそれがわかっていたから言ってもいいだろうと思ったわけで、何でもない世間話のようにサラッと流した。

紫帆の中で彼はすでに過去になっている。そもそも別れは紫帆が言い出したことであり、お互い納得しあった。
その時は苦しかったが、それも1年近く前のことだ。もう何でもない。
さきほどまでと何ら変わることなく皆と笑い合って、甘いデザートを堪能した。
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