三井長編 続編・番外編

□suite 03
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外に出ると、9月下旬とはいえ、まだ暑さの名残りも入り混じる。ちょっと早えけど、ビール飲みてえ!との藤真の提案で、仙道の車で新山下の湾に面する立地のシーフードレストランに向かった。

テラスの席に座れば、潮の匂いがする風がさわやかに吹き抜ける。係留スペースもあるので、自家用クルーザーで乗り付ける客もいた。

ノンアルコールの仙道に少し遠慮しつつ乾杯し、紫帆も背の高いグラスのビールを傾けた。
薄明るいうちから飲むのは、何とも贅沢だ。男性、しかもこの3人に囲まれて──
友人に話したら、羨ましがられるどころか、首を絞められるかもしれない。

「で、三井と紫帆さんはいつから付き合ってんの?」

唐突な藤真の問いに、三井はブッと吹き出した。

「チケットの話の時は知り合いとか言ってたくせによ、実際観にきた時にはすでに彼女なんだもんなあ」
「状況なんて、すぐ変わんだよっ。おまえ、それ読むの専門だろーが」
「だからすぐわかったぜ? オレの状況判断は天下一品」

確かに。それゆえにプロバスケ界において第一線のPGの地位を築いてきた藤真だ。
洞察力の他にも判断力、柔軟性、視野の広さを兼ね備えている。経験とセンスに裏打ちされたそれらに対抗しようとするのは無駄だといわんばかりに、三井は話題の矛先を変えた。


「仙道こそ順調なんだろーな? こいつ、アメリカ行く前に別れた彼女とヨリ戻したって話しただろ?」

以前に三井から聞いたことがある。いちどは別れを選んだふたりだが、結局、互いに忘れられずに心のどこかで想い合っており、紆余曲折を経て再び、と。

「おかげさまで。いろいろありましたけどね」
「まあ、良かったな。遠回りしたような気がしなくもねーけど」
「いや、あれがなかったら、今は違いますよ。きっと」

不可避で不可欠なことだった、今ではそんな風に感じている。そしてだからこそ、もう彼女の手を離したくない。そう仙道は強く思う──
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