三井長編 続編・番外編
□suite 04
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横浜駅で紫帆は私鉄に乗り換えた。
金曜の夜。送別会帰りで少しお酒が入っている。多くの人でごった返す改札で三井に連絡すると、彼の方が先に家に着いていた。
翌日の練習が午後からの日は、三井の家に行くのがここのところの習慣となりつつある。当たり前のように藤沢とは逆方向へ向かう電車に乗り込むと、紫帆は小さな溜息を漏らした。
その原因は2日前の一本の電話。予想できなくもない、けれど驚くべき相手から。1年ぶりのその声は、耳慣れずとも紫帆の記憶を揺さぶった。
山岸が戻ってくると聞いた時、動揺はなくとも、こんなに早く?とザワついた思いが横切ったのは確か。というのも、かつて別れを決めたのは、この状態があと数年続くのかと耐えられなくなったのが主な理由。離れているその距離に、親にウソをついて彼に会いにいくこと、その他諸々に疲れてしまった。
そして、その時に彼が下した決断。それが紫帆を追いつめた。
なのにそれから1年たつかたたないかでまた異動になるなんて。それがわかっていたら、何か違っていただろうか。
いや、今さらそんなことを考えたところで、感傷だらけの戯言に過ぎない。きっと結果は同じ。それにあの別れは“必要なこと”だったと、先日、自分で言ったばかりじゃないか──
込み合う車内は金曜の解放感からか、ゆるい空気が流れている。規則正しく刻まれる電車とレールの摩擦音がやけに耳についた。