三井長編 続編・番外編
□suite 05
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街灯の明かりが前方に三井の長い影と、その隣に自分の影を映し出している。
歩くにつれて薄まっていき、また足元から次の影が追うように浮き上がってくる様をぼんやりと目で追っていると、「今日はそんなに飲んでねえみたいだな」と三井がぽつりと口にした。
「うん、だから大丈夫だったのに……」
そう言ってしまってから、紫帆は後悔した。「来なくてもいい」、むしろ「来ないほうがよかった」という意味に聞こえなくもない。特にあの電話を聞かれたあとではなおさら。
「ごめん……」
「……何で謝んだ?」
「せっかく来てくれたのに…なんか……」
「別にいーよ」
いっそ問い詰めてくれたなら変な気遣いもいらないのだけれど。ますますおかしくなる雰囲気に、ひとつ息を吐いて腹をくくった。
「もし……聞きたいことがあったら、今聞いて?」
「今?」
「そう」
こんな状態を三井の家に持ち込みたくない。同じことを三井も思ったのか、ちょっと考えてから「じゃあ、ひとつだけ」と紫帆に視線を落とした。
「そいつと別れた理由って何? 前に、合意のもとにとか何とか言ってたよな?」
やはり紫帆が一番答えたくない話題からきた。三井にしてみれば、今さら連絡がくることが不可解なのだろう。
「遠距離だったの…1年ぐらいたったころから。最初はそれでも頑張ってたよ? だけど私には向かなかった、というか無理だったみたい」
相変わらず紫帆は自分たちの影が移り変わっていくのを見つめたまま、淡々と話しだした。
「いろいろ辛くなって……向こうも納得してくれて終わりにした」
「じゃあ、何で今になって……」
「さあ。でもこの9月からこっちに戻ってきたんだって。その報告でしょ」
戻ろうが戻らまいが、そんなこと別れた相手にいちいち報告しねーよ、と三井は思う。不審な面持ちで紫帆の表情を伺った。そいつのことを思い出したりしてるのだろうか。
そんな三井に気付いた紫帆は、「会ったりはしないから」と僅かに薄く笑みを浮かべた。
「ああ、わかった。……なあ、そいつってどういう知り合い?」
「ん? 友達の会社の先輩。一緒に飲みに行ったりしてて」
「年上?」
「4つ上かな」
「何年付き合ってたんだよ」と三井が聞いたところで、紫帆がクスクス笑い出した。さきほどの強張ったものとは違い、自然で柔らかい微笑み。
「ひとつだけ、って言ったくせに」
「いいじゃねーか!」
三井は紫帆の手をとった。触れ合う指先から三井の温かさが気持ちが伝わってきて、紫帆を満たしていく。これでいい。