三井長編 続編・番外編
□suite 08
1ページ/2ページ
何で…? 何の用だ…? 今まで電話をもらったことなんて、あったかなかったか。それすらも思い出せない。
仙道からの着信表示はただでさえ驚きであっただろうに、今の三井にはそれとは別に……妙に心を波立たせるものがあった。
三井の内なる焦燥をよそに、向こうは「三井さん? 仙道っすけど」と実にのんきなものだ。名乗られれば、言われなくてもわかると言いたくなるし、誰かのように「オレ」なんて当たり前のように掛けてこられれば、そのまま切りたくなる。
そんなことをこっそり思っていると、今いいですか?と確認されたあとの言葉に、しっかり聞こえていたにも関わらず、は?と聞き返してしまった。
「紫帆さんにお願いがあるんですけど」
何でおまえが紫帆に用があるんだよ、と言いたくなる。きっと何の他意がなくともそう思ったことだろう。だが、“彼女”にとって“元彼”だった仙道が、しかも結果ヨリを戻したという事実もおかしな箔をつけて三井にのしかかり、複雑な気分になる。
すべては三井の勝手な幻想であり投影なのだから、仙道にしてみれば迷惑な話だ。くだらないうえに、どうしようもない。それは自分でもわかっているが―――
「三井さん、聞いてます?」
「ああ、わりぃ……何?」
「だからあの革工房のカタログ送ってもらえませんか? 気に入ったみたいで、贈り物に使いたいって言うんで」
なんだそんなことか、と三井は「わかった」と返事をした。だが自然と頷きが間遠で上の空になる。さすがに仙道も気が付いたらしい。
「どうしたんですか? 何か問題でも?」
「いや、そういうわけじゃねえ。何でもねぇよ。おまえこそ……調子はどーだ?」
「まあまあですよ。バスケもプライベートも」
プライベートもまあまあときやがった。こっちの気も知らねーで、と筋違いな考えがわきおこり、それはすぐに泡のように弾けて消えた。
「油断してねぇで、さっさと結婚でも何でもしちまえよ」と捨て台詞をはくように言い放てば、「はは、三井さんもうかうかしてると何があるかわかりませんよ」なんて色んな意味で問題のある言葉をさらりと残して電話は切れた。
いちいち癇に障る電話だったぜと、携帯をいまいましげに見つめていると、着替え終わった宮城がやってきて「振られたんすか?」などとさらにムカつくことを言ってくる。
「仙道だよ」
「日曜の夕方っすよ? 試合じゃねーんすか?」
「あいつ……」
試合後に急に思い出して連絡してきたんだろう。しかもまあまあと言ったってことは、勝ち試合だったに違いない。その余裕さに余計に腹が立つ。どいつもこいつも。