三井長編 続編・番外編

□suite 09
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それは昨夜の出来事だった。だからまだ驚きや戸惑いは記憶に生々しい。その時に真っ先に頭に思い浮かんだのは、三井のこと。その三井が目の前にいる。

言ってしまいたいような、でも自分が口出しすることではないような。そんなこんなが顔に出てしまっていたのだろう。吐けと脅された(?)んだからしょうがないよな、と自身に言い訳しながら、ぽつりぽつりと桜輔は話しだした。


「昨日、帰ったとき、家の前に車が停まってて……」

その車から出てきた男に「桜輔くんだよね?」と話しかけられ、名乗られて初めて姉の元カレだとわかった。当時、姉に彼がいるのは何となく察していたし、別れたときは明々白々だったが、会ったことなどなかった。

「姉貴に取り次いでもらいたいって言われたんすけど……」
「けど?」

三井でなく、宮城がけげんに眉をひそめながらその先を促した。

「姉貴は会わねえって。会って話すことも必要もないって言ってくれ、って」

上目使いにチラリと三井を伺ってくる桜輔は複雑そうな表情だった。その姉の対応に、完全に三井贔屓の桜輔としては賞賛すらしたいくらいだったが、不必要なことを耳に入れているのではないか、ふたりの関係をおかしなことにしないか心配だった。
だが三井としては、おおよその予想はついていたともいえる今回の元カレのアプローチ。

「で、相手、納得したか?」
「はあ、その場はいちおう。わかったって帰っていきました……」
「そうか」と三井は首の後ろに手をあて回して、またゆっくり桜輔に視線を戻した。

「大事な時期なのに、余計なことで気ぃ遣わせて悪かったな」

いや、オレは……と恐縮する桜輔に「心配いらねーから」と添えると、いくらか目つきに安堵の色が浮かび、肩の荷が下りたような明るさが顔によみがえった。

「そうっすよね。毎週金曜、姉貴帰ってねえみたいだし、月バスとかに興味示すし」
「毎週じゃねえ……。ん?月バス?」
「ついこの間、見せろって」
「それ、藤真と仙道の特集号じゃねーか。だからだろ……ったく」
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