三井長編 続編・番外編

□suite 10
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ウィンターカップ県予選まで1か月を切り、練習に熱の入る湘北バスケ部は、夕方まで練習が入っていた。いったん実家に戻り着替えてから、三井は紫帆との待ち合わせの場所に向かった。
他愛のない話をしながら食事をし、いつもなら遅くまでやっているカフェに行ったり、レイトショーを見たり、夜の海辺を散歩したり。
だが、今日は寄り道するからと言ったきり、三井はどこかに車を走らせる。

しばらくすると紫帆にも目的地がわかった。

「どうして……?」
「いや、あれ以来だな、と思い出しただけ」

それはあの公園だった。高校生のころに一時期、ガラの悪い連中とたむろしていた場所。そして衝動的に紫帆に好きだと告げた場所。それはいい。だが急にどうしたというのだろう。
案ずる色を隠せずに隣の三井を見やると、その視線に気付いただろうに、彼は真っ直ぐ前を見ていた。

ところどころの外灯がぼんやりと木々を照らしだす中、辺りは逃げ場のないほどの静けさに包まれていた。高台へと続く階段を登っていくにつれ、三井の口数は少なくなる。秋の冴えた月がきれいな夜だった。
上がりきった広場の手すりに肘をつき、眼下の街を見渡すと、彼は「紫帆……」と小さく名前を呼んだ。

「先週のこと、聞いた」
「先週って……あっ、桜輔?」
「日曜に会ったときに様子おかしくてよ。無理矢理吐かせた。だからあいつは悪くねえ」

桜輔から聞いたのならば、きっぱりと断ったことも伝わっているだろうから問題ない。むしろ三井の前で小さくなっている弟を想像してしまい、紫帆はわずかに微笑んだ。彼も充分大きいのに。

「なあ、そいつからプロポーズされたこともあるんだって?」
「なんでそれを……」

だってそれは弟も知る由もないこと。どうして三井が知っているのだろう。

「こっちは……悪ぃ。おまえの友達の会話を聞いちまったんだよ」
「そっか。きっと大きな声でしゃべってたに決まってる。気にしないで」


気にしないで──
はたしてこの言葉は、盗み聞きのようになってしまったことを指しているのか。それともプロポーズのことを指しているのだろうか。
三井としては、もっときちんと知りたい。
ちゃんと知ったその上で、言おうとしていることがある。
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