三井長編 続編・番外編

□suite 12
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今頃、紫帆は元カレと会っている。
だが、焦りやおかしな勘繰りや不安はない。とはいえ、ただ待つ時間というのは得てして長く感じるものだ。無駄にソワソワと落ち着かず、こんなことなら誘われるままに飲みに行けばよかったと三井は後悔し始めていた。

親しい上司は「なんだ? 彼女か?」と珍しく断る三井に突っ込んできたけれど、その彼女は他の男と会っており、そんな気分じゃないから帰りますなんて言えるわけがなく、「今日はちょっと……スンマセン」と苦笑いで返した。

かといって、飲みに行ったら、かなりのハイペースで飲んでしまう自分が容易に想像出来て、ま、これが無難で正解だな、と自宅の冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
いっきに半分ほどあおる。キリッとよく冷えており、苦味が喉に滲み入るようだった。

携帯の着信音のボリュームを上げて設定し、そればかりを気に掛けていたが、鳴ったのはインターフォンで、開けるともちろん紫帆であった。

「なんで電話よこさねーんだよ?」
「まだそんな遅くないし、大丈夫だよ」

いつもと何ら違わず普通に受け答えする紫帆に、三井は胸をなでおろしたが、アンクルブーツを脱ごうとしている姿を見て、眉間に皺を寄せる。

「なんでスカート履いてんだ?」
「なんでって、履かないで外を歩けと?」
「そういうことじゃねえ……」

自分と会うときにはあまり見たことがない。しかも透け感のあるダイヤ模様の柄ストッキング。明らかに不満顔の三井をよけるように紫帆は部屋に入り、床に座り込んで「疲れた……」と上半身をベッドに伏せた。



駅で三井に連絡しようかとも思った。
けれど、三井の顔を見る前に少し落ち着く時間が欲しくて、切り替える時間が欲しくて。ひとりでゆっくり歩いてきた。

山岸はまず、拒絶していた紫帆がなぜ急に会うと言い出したのか? 疑問を口にした。
今付き合っている彼がそうしろと言ったからだと言うと、顔を曇らせ苦笑を漏らす。その時点でどうにもならないと自分の不利を悟ったのかもしれない。

当たり障りのない会話をひとしきりしたあと、最後に「やり直せないか?」と核心に触れた。NOを告げると、「その彼が好きなんだな?」と言うから小さく頷いた。


三井が新しいビールを出してきて、「大丈夫だったか?」と紫帆に差し出しながら問うた。

「ありがと。うん、大丈夫……」
「そうか……」

紫帆の頭の上にフワリと手を乗せ、優しく髪をなでてくれた。何だか無性にホッとして涙が出てきそうだった。
それを隠すように「私は寿を選んだんだから、ちゃんと責任とってよね!」と言うと、三井はニヤリとし、「望むところだ」と答えた、その時──
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