三井長編 続編・番外編

□Dans le jardin(前)
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彼らを駅に迎えに行くことが任務として三井に託された。紫帆の母親から頼まれては、嫌そうな顔すら出来ない。約束の時間にロータリーに車を横づけした。

「三井、エルグランドなんて乗ってんだ」
「ちげえ、これ紫帆んちの車。帰りはお母さん、送ってくれるってよ」
「悪ぃな。至れり尽くせりで」

大事なサプライズゲスト様……だそうだ。
三井だって数日前に聞かされて驚いた。彼らの来訪は極秘につき、紫帆の家のガレージに停めたところで、着いたと電話を入れる念の入れよう。
玄関から紫帆が出てきてふたりを迎え入れるが、そのいつもより弾んだ声に、自分のときとえらい違うじゃねーかと文句のひとつも言いたくなる。
とりあえず藤真と仙道にはリビングのソファーに座ってもらった。

「お、すごいな。もう準備万端だな」と藤真が窓の外を見て言った。
「本人は?」
「自分の部屋で何も知らずに勉強してます。呼んできますね」


誕生日だから── 受験生とはいえ、この日ぐらい三井も呼んで祝おう……そのくらいは話してある。
小さい頃から家族の誕生日は庭でバーベキューをするのが恒例になっていた。そのためにレンガを積んだ炉もある。

しばらくして下りてきた桜輔は、まず面喰ってポカンとし、声も出ないようでアワアワと唇を震わせ、あげくにオロオロし始めた。

「な、なっ……え? ここ、オレんちだよな……?」

ここ数時間で脳みそに詰め込んだものまで抜け落ちてしまうのではないか、と心配になるくらい狼狽える桜輔に、藤真が余裕の笑みで初めましてと手を差し出す。「お招きに預かりまして」と仙道もニッコリ微笑んだ。


「三井さんっすか?」
「と思うだろうがオレじゃねえ。このサプライズの礼はお母さんに言えよ」

紫帆でもなく、母親だった。というのも、それは仙道が彼女とデートがてら紫帆の母の店を訪れたことに端を発する。
世間話から三井の話、今度の連休にウチで三井さんとバーベキューするのよ、あら、仙道さんもお暇じゃないかしら? 実はね………とあっという間に話はまとまった。

憧れのスタープレイヤーを前にして、ただただ立ち尽くすバスケ少年。「ほら、しっかりしろよ」と三井はその背をポンと押した。
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