三井長編 続編・番外編

□Etude d’automne
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秋の深まりも頂点を極めようとするころ。
とある土曜日―――
湘北高校の体育館ではバスケ部がいつも通り練習に励んでいた。ウィンターカップの予選も近く、調整に余念がない。三井も熱心に指導していた。少し寝不足の体に鞭打ちながら……

というのも、来週末に業務上必要な資格試験を控えており、ここのところ平日は真っ直ぐ帰宅し、遅くまで勉強している。
週末の練習後は紫帆と待ち合わせるのがお決まりとなっているのだが、今日はそれもせずに横浜の自宅に戻り、明日は一日こもるつもりだった。


「三井サン、目の下、クマ出来てるっすよ? 昨日の夜、頑張りすぎじゃね?」

いつもより疲れた様子の三井に、宮城がニヤニヤしながら話しかけてきた。

「ああ、ヤベーんだよな……」
「ヤベーくらいヤッてるって? 何それ自慢?」
「自慢? つーか、落ちるわけにいかねえからよ……」
「落ちる? 何に? 何の話?」
「おめーこそ何の話だよ? 来週、試験があんだよ、パスしねえと仕事になんねえからなー」

相変わらずだな、と宮城は秘かに思った。追い詰められて本領発揮するタイプだから心配はいらないけれど。

「紫帆サンと会ってるヒマもねーんだ?」
「それ終わるまでそんな余裕ねーな」
「『それなのにこうやってバスケしてる余裕はあるワケ!?』とか責められねぇ?」

よくある類の話である。バスケを優先するがゆえにモメて、それが別れのきっかけにもなってしまうこと。大人になった今はそれが『バスケ』でなく、『仕事』というケースも数多い。
とにかく、このヒト、そういうことわかってんのかなーと疑わし気に三井を見やると、三井はそんな宮城の顔を不思議そうに見返してきた。

「それはねーな。彩子もそんなこと言わねえだろ?」
「そりゃあ、アヤちゃんはオレのことよく知ってっから」
「だからだよ。おめーらほどじゃねーけど、紫帆もよく知ってんだよっ!」と三井は少し気だるそうに立ち上がった。

「何だよ、やっぱり自慢されてんじゃん、オレ……」

ブツブツとぼやきながら、三井の後を追って立ち上がると、宮城は大きく辺りの空気を吸い込んだ。頬をなでる10月の少し冷たい風が、疲れた体に気持ちいい。あと1時間ほどか、と宮城は気合いを入れ直した。
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