三井長編 続編・番外編

□Cuisine masculine
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季節は春。とはいえ桜の蕾はまだ固く、風は真冬の冷たさを持っている。
この週末は卒業式の関係で部活は休み。数日後のホワイトデーのお返しの用意を上司に託された三井は、何にしたらいいかさっぱりわからないので紫帆に頼った。
日持ちする焼き菓子がいいんじゃない?とフランス料理店に併設するパティスリーに連れてこられたのだが。

「何人分?」
「5人」
「これとか、どう?」

風味豊かに焼き上げたマドレーヌ。愛らしいバラの形とそのほのかな香りは、女性受けがよさそうだ。
それは即決したのだが、それとは別にもうひとつ用意する必要があるらしい。そのマドレーヌにチョコレートと紅茶がセットになったものを選ぶと、「これでいっか」と三井は会計を済ませた。

途中で寄ったカフェでひと息つくと、紫帆は何気なく「あのセットは誰に?」と三井に聞いた。

「本社にいる同期の女。新人の時、一緒にチーム組んでたうちのひとりで、ちょうど横浜支社に来たんだと」
「ふーん。バレンタインにちゃんといただいたんだあ。お返しする機会あるの?」
「14日は過ぎちまうけど、金曜に本社行くからその時だな」

ミルクたっぷり入れたにもかかわらず、三井はコーヒーに口をつけると、「熱っ」と慌てて口を離した。そんな三井が微笑ましく、その同期の女性のことなんてすぐに忘れてしまった。
しかも紫帆へのお返しとしては、今夜、三井が手料理をごちそうしてくれるというではないか。話はそっちに傾いた。

「オレがもてなしてやる。だからおまえは座ってればいいから」
「え!ホント!? な、何を作っていただけるんでしょう……」
「そんな恐る恐る聞くな」

今までも三井の家でご飯を作ったことは何度もあるが、一緒にやるといっても主体は紫帆。ちょっと混ぜるのを代わってもらったり、サラダ用の野菜を盛ってもらったり、せいぜいご飯を研いでもらうくらいだった。そういえば三井にまるまる作ってもらったことはないかもしれない。

最寄り駅からの帰り道、スーパーに寄った。今日は三井が率先して食材を選んでいくので、紫帆がカートを押す。サニーレタス、キュウリにブロッコリー、エビ、鶏肉、ミックスチーズ。

「ピザ…?」
「ちょっと違え。グラタン作ってやる」

ホワイトソースは市販のものを使うらしいが、予想外なメニューだった。他にも、セロリとベーコンでスープを作るとか。
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