三井長編 続編・番外編

□En confiance 8
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中国最大のメトロポリタンシティ『上海』

今日は曇りなのか、それとも例の大気汚染のせいなのだろうか、空は白く霞んでいた。
林立する先進的な高層ビルは軒並み高さを競うようにそびえ立ち、かといって南宋時代からの古い街並みと租界時代の西洋風の街並みも同じ景色の中に同居している。実にエネルギッシュな都市だ。

朝イチの便だったので、昼前には到着し、工場の実査も製品チェックも済ませた。明日はその会社の上海支店に寄って終了。
実質的な仕事は以上で、今日はこのあと夜の食事会があるが、それまで2時間ほど時間が空いた。タクシーで市内に出てみることにした。

「あの『茶館』ってお茶売ってんだよな?」
「そうだね。三井、中国茶買いたいの? それならお茶の市場に行くのがいいって。中途半端な土産店だとボったくられるらしいよ」

試飲にも料金をとり、さらに法外な値段で茶葉を売りつけてくるのだとか。自分だけだったら……ひっかかってしまいそうだ。まんまと騙されたに違いない。
運転手に、本を指さし、片言の中国語で指示をした。

『茶城』というのが市場のことのようだ。小さな店舗がところせましと並んでおり、そのすべてがお茶や茶器を扱うお店。
適当にきれいで大きなところに入り、見てまわるがさっぱりわからない。どれも同じに見える。

「なんか……お湯を入れると花が開くとか……」
「名前は?」
「……忘れた」

英語のわかりそうな若い女性の店員さんに声をかけ、何とか説明すると、この辺りだと示してくれたが、さらに細かく種類があるらしく、余計にどれを選べばよいのやら。2センチほどの鞠状にまとめられたその茶葉は、球根にしか見えない。

人気のものをセットにしてもらい、さらに耐熱ガラス製のデキャンタを買った。
曖昧なオーダーに根気よく応対してくれた店員さんの、「これだと花がきれいに開いていくのが見える」という勧めを断れなかった。

その後、市村の買い物に付き合ったり、名所を車窓から眺めたあと、指定された店に向かう。
現地の駐在員が用意してくれたのは、本場の上海料理が食べられるレストラン。さらに日本人好みのメニューを設定してくれたようだ。

上海は小籠包の発祥の地でもあるらしい。へえ、と感心しながら舌鼓を打つ。やけどしそうになった。

「上海の味覚といえば、上海ガニなんですけどね。ここの店のはカニ味噌もたっぷり詰まっていて最高なんですが、入荷が10月すぎなんですよ」
「その時期に来たいですね」

そんな会話をしながら、どんどん運ばれてくる料理を味わう。
上海料理のエビチリは甘めのソースが特徴らしい。カリッとしたおこげと絶妙のバランス。三井は紫帆が喜びそうだなと思った。



「あー、お腹いっぱい」

ホテルに戻れば、いくぶん解放された気分。

「ねえ、上で少し飲み直さない?」という市村の提案に、「いいね」と三井は賛同した。
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