三井長編 続編・番外編

□Par rencontre
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ゴールデンウィークの谷間の平日。
朝の電車も空いていれば、有休を駆使して連休にする者も多く社内も人が少ない。会議もなければ、雑用に煩わされることもなく、いつもよりはかどると言えばはかどる。
早々に仕事を切り上げ、三井は先輩の主任とともにオフィスを出たのだが、通常ならサラリーマンで賑わう金曜の夜だというのに辺りは明らかにひっそりとしていた。

「寂しいくらいだな。寂しいついでにうまいもんツマミに男同士で飲むか」と誘われ、宮崎地鶏を炭火焼で食べさせてくれて、焼酎の種類も多い居酒屋に立ち寄ることになった。

適度に照明が落とされ、落ち着いた店内。
いつもなら混んでいる店だけあって、中は思ったよりも客が入っていた。案内されるままに奥に進むと、ふと先輩が足を止めた。

「――じゃないか、驚いたな。何だよ、出張か?」
「久しぶりだな。悪い、連絡してなくて。オレ、最近こっちに異動になったんだよ」

知り合いを見つけたらしい。その人物を見て、あれ?と三井は思った。見覚えがある。
そして何気なく視線をうつせば、驚きのあまり己の目を疑った。手前に座っているのは紫帆ではないか。紫帆だ。

この界隈で出会ってもおかしくない。だが今までかすりもしなかったのに、なんだってこの数週間で2回も。
顔をあげた紫帆も息をのみ目を見開く。そんなギョッとして二度見すんじゃねえ、と三井は心の中で呟いた。

もちろん素知らぬふりで通された席に先に座った。ほんのり温かいおしぼりで手を拭いていると、先輩がごめんなと向かいの席につき、ビールを注文した。

「高校の同級生でさ。こんなところで会うなんて驚いたよ」
「久しぶりなんすか?」
「ヤツの結婚式以来だな」


一方、紫帆の方はといえば、驚き冷めやらず、3メートルほど離れたところに座る三井の背中をこっそりと眺めた。
マネージャーの提案で、北口の方へ飲みにいこうとなった時点で、『遭遇』をまったく想定しなかったわけではないが、まさか現実になろうとは。そしてさらに思いもよらなかったのは、マネージャーがあちらの先輩と友人であるらしい。

「高校の剣道部で一緒だったんだ。さっきのヤツ」
「マネージャー、剣道されてたんですか?」
後輩の女の子が意外そうに声をあげた。
「ケガして半年以上出来ない時期があったんだけどね」

一番の成長時期ともいえる高校時代にケガを負う……。その当時は絶望したり、羨んだり妬んだり、やはり大きな葛藤があったのだろうか。この穏やかそうなマネージャーにも。
あそこで今上着を脱いだ彼なんて、それでグレちゃっていろいろやらかしちゃったんだからと思い至り、紫帆は緩んでしまう口元を隠すためにビールを煽った。

「中林さん、何飲む? 皆で焼酎ボトルでいこうか。どれがいいか選んで」

そういえば。三井からその話を聞いたときも焼酎だったな、と紫帆はほくそ笑んだ。飲み過ぎて連れて帰ってもらったのはその時だ。
今夜も少し危険な気配がする―――
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