三井長編 続編・番外編

□Esthétique
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※牧・中編 シネマティックストーリーより派生作です。こちら単独でも問題ないと思いますが、上記をご覧いただいたあとのほうが、より楽しんでいただけるかもしれません。


Esthétique

都心にありながら、リゾートホテルのようなスポーツクラブ。
そのスタジオにて、三井は変わったポーズをとらされていた。そのまま静止し、言われた通りに息を吸ってゆっくり身体を傾ける。

「き、きつい……」と紫帆は呟いた。
「オレは余裕だね」

過去のケガの教訓から、特に関節のケアには気を遣っているわけで、このくらいはちょろいもんだ。
ヨガなんて初めてやったが、体幹が鍛えられるらしい。体幹が安定していれば、バランスを崩すことなくシュートが打てる。体の大きな相手にも力負けしないだろう。なかなかいいかもしれない。

「なにその勝ち誇った顔」

不満気な彼女に、パーソナルトレーナーが優しく笑いかける。

「無理しなくていいですよ。ただ、ここの筋肉を意識して、もう少し背を反らすように」と腰に手を添え、姿勢を直されるさまを視界にとらえ、三井は心持ち眉をひそめた。


いったん着替えるために男女別れ、スパゾーンで合流した。プールもあり、ウォーキングをされる方、熱心に泳ぐ方、それぞれが思い思いに過ごしている。
先客がいないジェットバスに一緒に入った。

「色気のねえ水着だな。もっとこう……」
「スポーツクラブなんだから、フリフリのビキニなわけないって。寿は露出が多ければ多いほどいいんだろうけど」
「そんなことねーよ? 中身がともなってねえとな」
「すみませんねっ!」と紫帆はそっぽを向いてしまった。
紫帆のことではなく、一般論だったのに。

湯は一面泡立っており、その音がリズミカルに身体の奥に響いてくる。
ちょっとした欲望を刺激するように。
三井は紫帆の水着の胸元に泡が集まり、やがて消えていくのをぼんやりと眺めていたが―― 手持ち無沙汰そうに大きく伸びをした。そしてそのまま湯の渦の中で、そっと手を紫帆に伸ばす。

つるっとした水着の生地に触れた。
そのまま上へと指を滑らせると、紫帆がハッとしたように身を引くのがわかる。
抗議の視線を送られるが、そこで止めるような三井ではない。泡にまぎれて胸の膨らみを下からひと撫でしてから、腰まわりをたどる。
「ちょっと……何してんの……」と抵抗する声は、泡立つ水の音に吸収されよく聞き取れない。

「ん? 何だよ?」
「くすぐったいから……やめて」
「感じるの間違いだろ?」
「ばか、やめてって」と手を押し返される。

さっきはトレーナーの男に平気で触られてたじゃねーかと秘かに心の中で咎めつつ、そんな自分に薄笑いをもらして、ジェット水流が腰にあたるよう少し身体を浮かせた。

「それにしてもさ」と三井はスパ全体を見渡した。
「すげえ綺麗で高級そうなとこだよな」
「チケットくれた牧さんに感謝だね。しかもランチもついて、午後は個室でエステなんでしょ? 至れり尽くせりだよね」

もちろんエステなんて三井は初めてだ。
最近はメンズエステなんてものがあるらしいが、女性が美容目的でいくところ、そんな認識しかない。だが、あの牧が「意外と良かったぞ」なんて言うものだから興味が湧いた。

せっかくだから楽しませてもらおう。
温かい泡に包まれて、疲労が末端からほどけていくようなリラックスを感じる。
三井は柔らかな浮力に身体をまかせた。
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