三井長編 続編・番外編

□Horoscope
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ようやく風がさわやかになってきた週末。とはいえ、湘北での練習帰りの三井は、紫帆の家に来るなりシャワーを借りた。
しかも替えの下着を忘れたと言うから、桜輔のストックを出してあげた。弟がいて良かった。さすがに父親のではしのびない。

エアコンのきいたリビングにやってくると、大阪出張のみやげだと渡されたのは、しゃれたブラウンのパッケージ。チョコレートのようだが。

「こういうちょっと変わったモン、お前好きだろ?」

ゼリーのように個装されており、ぷるんとした見た目からして瑞々しい。

「コーヒーゼリー?」
「“カカオ水ようかん”だってよ。おもしれえなと思って」
「あ、テレビで見たかも。新丸ビルにもあるよね」
「マジ? 東京にもあんのかよ……」

だが、こっちは間違いなく大阪みやげだと“蓬莱の豚まん”も買ってきてくれていた。これは弟が喜ぶだろう。
三井はガシガシと髪をふきながら、「なら、たこ焼き味の菓子にでもしとけば良かったな」とか何とかぶつぶつ言っていたけれど、おみやげとはそもそも気持ちの表れ。自分のために自分好みのものを選んで買ってきてくれたとあれば、何をもらっても嬉しい。

「ありがと。じゃ、そのパンツあげる。買って返したりしなくていいから」
「高けえパンツだな。それけっこうすんだぜ?」

愉快そうに三井はニヤリと笑った。そしてリビングのテーブルについて、冷たいお茶をいっき飲みすれば、ふと置かれたままの雑誌に目を落とした。

「なあ、オレって何座だっけ?」

紫帆が遅い昼ご飯を食べながら、ぱらぱらとめくっていたもので、ちょうど占い特集のページが開かれていた。

「5月22日だから、ふたご座でしょ」
「オレの下半期の運勢は──」

紫帆も覗き込んだ。
『消極的になってしまいそう。見えない壁のようなものを感じるかも。原因はあなたの内面にあるでしょう』
かわいらしい双子がモチーフの挿絵とともに書き記された内容は、決して明るい見通しとは言いがたいもの。

「心の中を見つめてみましょう……? 余計なお世話だ!」
「ここ見てよ、『不安な気持ちにとらわれると、本当に問題を作り出してしまうので──』だって。めちゃくちゃ寿っぽい。この占い、超当たるんじゃない?」
「何でだ! そういうお前は何座なんだよ?」

これ、と指さし読み上げれば、可もなく不可もなくといった運勢だろうか。

「直感で行動しましょう……まあ、行き当たりばったりなお前にはぴったりか。笑顔を絶やさずにだってよ。笑ってりゃいいんだから、まったくお気楽なもんだな」

呆れたように三井は言うけれど、そんな楽天的でいられるのも三井が隣にいてくれるから。こんな風に一緒に穏やかに過ごせるなら、自分は笑顔でいられると紫帆は思う。
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